延命治療とは何ですか

高齢で老衰がすすんだ方のご家族に、「延命治療」について説明することがよくあります。あるとき、患者さんの娘さんから「延命治療とは何ですか」と尋ねられました。

医療者側は、ごく普通に使っている用語が、一般の方にはよく理解できないことが多いものです。言葉通りに解釈すれば、そもそも、治療というのは命を延ばすためにやっているわけだから「治療=延命」でしょう、ということだと思います。

ここで、医療者側が使う「延命治療」とは、たとえば、
「認知症の末期で誤嚥を繰り返し、抗生剤が効かなくなった」
「癌が進行し、多臓器の機能が低下している」など、
病気が進行し、回復することができない状態での治療を意味しています。

死が間近になると、血圧が低下したり、酸素を投与しても十分に呼吸ができなくなったりします。その状態から、血圧を上げる昇圧剤を使用したり、気管にチューブを入れて人工呼吸器で強制的に酸素を送り込む行為などが、「延命治療」になります。

効果の期待できない抗生剤を延々と使用したり、食事ができない患者さんに静脈栄養を続けることや、心臓が停止した際に心臓マッサージを行うことなども、「延命治療」の範囲に含まれます。

「延命治療」とはいいますが、生存時間を延ばす処置であって、治療に対する反応はないか、あっても短期間です。

こうした治療は、救急入院など回復が期待される場合は、当然に行う治療です。しかし、死が避けられない状態から、心臓や肺を機械的に動かすことは、そもそも本来の意味で「治療」ではありません。

こうした「延命治療」をするかどうかを家族に決めさせるのは、残酷な話だと思いながら、説明しています。本来は、患者さん自身が決めることなのですが、意識がない状態や認知力が低下した状態では、本人にはその力がありません。まだ、判断能力があるうちから、そうした最期の治療をどうするかを家族に話しておく文化が、日本にはまだ根づいていないのが現状です。

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