誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

誤嚥

のどの奥は、胃につながる食道と、肺につながる気管に分かれています。食物などを飲みこむと、喉頭蓋(こうとうがい)というふたが気管をふさいで、食物が肺の方に流れ込まないようになっています。

ものを飲みこむことを、嚥下(えんげ)といいます。脳梗塞や認知症でうまく嚥下ができなくなると、食物や唾液が肺に流れ込みます。

口の中は、もともと細菌がいる場所ですから、細菌の着いた食物や唾液が肺の中に入ると、肺炎を起こします。これが、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)の原因です。

高齢者の肺炎の大半は「誤嚥性肺炎」です。入院された肺炎患者さんのうち、70歳台で70%、80歳を超えると90%が誤嚥性肺炎です。

入院患者における誤嚥性肺炎の割合(Teramoto, et al. J Am Geriatr Soc. 2008;56:577-579)

誤嚥性肺炎を起こす患者さんは、うまく会話ができず、症状の訴えがないことも多く、元気がない、とか、食欲がない、などしか症状がでないこともあります。

誤嚥性肺炎は、若い人の肺炎とは違い、抗生剤を使っても治りにくかったり、いったんは治っても、すぐに再発することが多い病気です。

入院中の高齢の患者さんで嚥下がうまくできない方は、歯磨きを口の中をきれいにする口腔ケア、食後にしばらく座位にする、などの工夫をするのですが、それでも、誤嚥を起こしてしまいます。たとえ、まったく食事をさせずに、点滴だけにしても、夜間に寝ている間に唾液を誤嚥してしまい、結局は誤嚥性肺炎を繰り返すことがよくあります。

誤嚥性肺炎は、高齢の患者さんが、認知症や脳梗塞などで脳の機能が低下したことを反映しています。

誤嚥性肺炎は、確かに肺炎なのですが、誤嚥を起こす嚥下障害に原因があります。つまり、誤嚥 > 肺炎。誤嚥に問題があるのです。誤嚥を起こす原因が、年齢や認知症であれば、再発を繰り返すことは避けられません。

誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎の原因

認知症と誤嚥性肺炎

肺炎は、日本人の死因の第3位です

長らく、がん、心臓病、脳卒中が、日本人の3大死因でした。しかし、1980年代から肺炎による死亡数が徐々に増加し、2011年には脳卒中を抜いて、日本人の死因の第3位になりました。肺炎による死亡者数の96%以上が65歳以上の高齢者なので、肺炎死亡者の増加は、日本の高齢化を反映していることになります。

肺炎の年齢階級別死亡率(成人肺炎診療ガイドライン2017より引用)

口から入った食べ物は、食道から胃に送られます。このとき、肺への通り道はフタがされ、肺に食べ物が入らないようになっています。これは無意識に、反射的にものを飲み込む筋肉が動いているからです。

脳の機能が低下すると、ものを飲み込む筋肉や神経の働きが悪くなり、食べ物がだらだらと気管から肺の中へ流れ込みます。食事中にムセこんだり、飲み込んだようでも口の中に食べ物が残っていたりします。食べ物には口の中の細菌がいっぱい付着していますから、細菌の塊が肺の中に流れ込むことになり、即座に重症の肺炎ができあがります。誤嚥性肺炎は、たとえ食事を止めていても起こります。細菌の入った唾液などを、無意識のうちに誤嚥して肺に入っていくからです。

高齢者の肺炎は、大半が誤嚥性肺炎です。とくに認知症で脳の機能が低下した方に多いのが特徴です。

誤嚥性肺炎を起こす認知症の患者さんは、かなり進行した認知症と考えられます。脳の機能が低下するにつれて、誤嚥性肺炎は再発しやすくなり、重症化して死因になることが多くなります。

<参考> 日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2017」

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