3年目のレモンが実るとき

庭の隅に植えたレモンは、私の身長ほどの大きな苗だったので、植えた翌年には実がなるだろうと期待していた。

植木屋の若大将も、これならすぐに実をつけるだろうと話していたが、近所の花屋のじいさんは、「レモンは植えて3年かかる」と自信ありげだった。

花屋のじいさんは、レモンを植えた翌春に肺炎で亡くなってしまい、レモンの木は、じいさんの形見になってしまった。

レモンは、毎年、白い花を咲かせて、小指ほどの実をつけるのだが、梅雨の間に強い雨にたたかれて、すべて地面に落ちてしまう。

今年は花屋のじいさんが予言した3年目で、レモンは白い花に小さな実をたくさんつけたが、またも雨に打たれて、夏には一つ残らず地面に落ちた。

先週の日曜日、レモンの伸びきった枝を切り詰めていたとき、私は思わず、近所に聞こえるほどの大きな声で妻を庭に呼びこんだ。

「レモンが、なっている」

げんこつほどに実ったレモンの青い実が、ただひとつ、一番低い枝に隠れるようにして育っていた。

雨にたたかれて落ちることもなく。

花屋のじいさんが言ったとおり、3年目にレモンは実をつけた。

レモンには、亡くした人の思い出がある。

私の実家のこれも一番隅に、母がレモンを植えていた。

レモンを植えた当人は、病を患い、そして、亡くなった。

母の葬式が終わって、ふと庭を見やると、水やりもされずに干からびたレモンの木の真ん中に、黄色く熟したレモンの実がふたつだけ。

母が、自分と弟に残してくれたレモンだと今も勝手に思っているが、そうすると父の分がないので、このことは父には話していない。

写真なし

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