たけしが来ました

誤嚥性肺炎で救急入院してきた90過ぎの女性の患者さんは、認知症がひどくて、意味不明の話を一方的にしゃべり立てるばかりで会話はできなかった。

患者さんは、足の不自由な、おそらく認知症の90代後半のご主人と二人暮らしで、一人息子は福岡から遠く関東に住んでいたので、入院の手続きも病状の説明もままならずに、数日が過ぎていた。

ある朝、患者さんが、私に「たけし、たけし」と声をかけるので、「僕は、たかしですけど」と他愛もない冗談を返していた。

「たけし、たけし、

なんで、ここにおると

遠くからたいへんやったろ。

ありがとうね、たけし」

夢をみる老婆を女優が演じているような、TVで見たことがあるような、せつない口調で何度も繰り返している。

期せずして、その日の午後、関東からやってきた息子の名前は「たけし」であった。

息子は私から母親の病状が回復していることを聞くと、翌日には退院の手続きをして、関東に戻っていった。

 

入院したおかげで久しぶりに息子に会った母親は、また一人になり、残された認知症の旦那のもとに帰っていった。

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