がんの広がりによっておきる痛みを、癌性疼痛といいます。癌性疼痛を適切に管理することは、緩和ケアを専門にするホスピスだけではなく、がん患者を治療する一般病院の医療者に広く求められるスキルです。
がん患者の痛みの特徴
- 終末期がん患者の2/3以上で主症状
- もっと早い時期でも1/3に痛みがある
- 大多数は持続性
- 50%は強い痛み、30%は耐えがたいほど強く、QOLを低下
疼痛管理の意義
- がん患者の痛みは消失させることができる、消失させるべき
- 痛みに対応しない医師は倫理的に許されない
- 痛みからの解放はすべての患者が強く望んでいる
痛みの評価
痛みを10段階で評価する。
0=痛みがない
10=最悪の痛み
NRS : Numercial Rating Scale
疼痛治療の目標
- 段階的な目標
- 第1段階:痛みに妨げられない夜間の睡眠の確保
- 第2段階:昼間安静時の痛みの消失
- 第3段階:体動時の痛みの消失
- 5つの基本原則(WHO指針)
- by the mouth:
なるべく簡潔な経路を選択する、可能ならば経口投与 - by the clock:
時刻を決めて投与する、痛みが出てからの頓用方式は不適切 - by the ladder:
痛みの強さに応じた効力のある薬を選ぶ - for the individual:
患者には個人差がある - With attention to detail:
繰り返し再評価し、調節を行う
- by the mouth:
WHO方式
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)から開始し、痛みの程度にあわせて、オピオイド(麻薬系鎮痛薬)を使用する。痛みの状況に応じて、鎮痛補助薬を併用する。
オピオイド製剤
オピオイド(麻薬系鎮痛薬)には、中等度の痛みに使われる弱オピオイド、強い痛みに使われる強オピオイドがあります。強オピオイドの代表が、モルヒネです。モルヒネには、経口薬・注射薬・座薬があり、すぐ効くタイプ(速効性)とゆっくり効くタイプ(徐放性)を使い分けて治療します。
- オピオイド導入時の注意点
- オピオイドの3大副作用は、吐き気、眠気、便秘。
- 導入期の副作用は、頭痛、吐き気、嘔吐、眠気などで、2~3人に1人は必ずある。
- 便秘はほぼ100%あり。
- 導入期の副作用は、3~4日で改善することが多い。
- 維持期の副作用は、主に便秘、眠気。
- まれにオピオイドが体に合わない人(不耐性)がいる。
- オピオイドの副作用対策
- 便秘や嘔吐などの副作用がおきないように、予防的に投与することがあります。
- 便秘:緩下薬(酸化マグネシウム、ラキソベロン、プルゼニドなど)
- 嘔気・嘔吐:制吐薬(ノバミン、セレネース、プリンペラン、ナウゼリンなど)
- モルヒネの誤解
- モルヒネを使うと中毒になるのではないか?
- モルヒネを早くから使うと、痛みがひどくなったときに効かなくなる?
- モルヒネを使うようになるということは、死が近いことを意味するのでは?
- モルヒネの投与をお話しすると、多くの方がこんな風に考えています。しかし、それは誤解です。
- モルヒネを使用しても中毒にはなりません。痛みがおさまれば、モルヒネを中止することができます。
- モルヒネに極量はありませんので、効果があるまで増量することができます。モルヒネ以外の鎮痛薬を併用することで、鎮痛効果が改善することがあります。副作用対策を十分に行えば、副作用で投与ができないことはまれです。
- モルヒネは、がんによる痛みをコントロールして、快適な生活を送るため薬です。モルヒネによって命が短くなることはありません。むしろ、痛みをやわらげ睡眠が確保されることで、全身状態の改善に役立ちます。
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