厚生労働省が2019年6月9日に発表した死亡原因の統計で、「老衰」が「脳血管疾患」を抜いて3位になりました。1位、2位はこれまでと変わらず、悪性新生物(がん)、心疾患でした。
これまで、がん、心臓病、脳卒中が長らく死因の上位を占めていましたが、今回、その一角に「老衰」が登場したことになります。
ところで、「老衰」とはどういう病気なのでしょう。
私たち医師が死亡診断書を作成するときの指導書になる、厚生労働省 「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル 平成31年度版」には、
「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用いると書かれています。
他に記載すべき死亡原因がない、自然死?
大辞林デジタル版によれば、
「自然死とは、外傷や病気などによらず、生活機能の自然衰退によって死ぬこと。老衰死。」
となっていますので、また、老衰にもどってしまい、結局、よくわかりません。
老衰といっても、最終的には、誤嚥による肺炎であったり、心不全、腎不全など、なんらかの病名はつけることはできます。
しかし、高齢者がゆるやかに衰弱し、100年近く使ってきた臓器の機能が低下して亡くなるのは、生物としての寿命といえます。
明確な定義がないので、老衰という病名をつけるのは難しいし、医者としても勇気がいります。「老衰は病名じゃないでしょう」、「年寄りだからあきらめろということでしょう」と、ご家族から言われそうな不安がよぎります。
逆にいえば、老衰という病名がつけられるのは、医師と患者家族の関係が良い証であるともいえます。
超高齢化社会になり、百歳が珍しくはない時代ですが、百歳まで生きるのがあたりまえではありません。人間には寿命があり、年をとるということは、寿命に近づいていく過程であることを、当の本人も、ご家族も理解し、準備をすることは、長生きをする人の心得と思います。
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