医療事故と医療過誤の違い

現場にいる人間でも混同してしまう言葉に、医療事故と医療過誤があります。

医療事故は、医療に関わる場所で、医療の全過程において発生するすべての人身事故のことです。

事故という言葉は、医療従事者に過失があるような印象を与えるのですが、英語でいうと、エラーという意味になります。作業がうまく行われずに起きてしまった、間違いです。患者さんに損害が生じた場合だけでなく、医療従事者が損害を受けた場合を含めた、すべての事故が医療事故です。医療事故という表現には、医療従事者の責任があるか、ないかということは含まれていません。

医療事故は、事故の総称です。これに対して、医療過誤(いりょうかご)という言葉があります。医療過誤は、医療事故の一類型であって、医療従事者が、医療の遂行において、医療的準則に違反して患者に被害を発生させた行為、のことです。

つまり、一定の医療水準のもとでは、予期できた、慎重にやれば避けることができたことが、医療過誤です。この場合、医療機関側に過失があるので、患者さん側に損害が生じれば、賠償責任が生じます。

医療事故=医療過誤ではありません。

医療事故を、すべて医療過誤と誤解されると、患者さん側と医療機関側に、感情的なもつれが生じて、医事紛争のもとになります。

医療機関では、医療事故はシステムのエラーと考え、できるだけ減らす努力を続けています。その一例が、ヒヤリ・ハット解析です。

ヒヤリ・ハットとは、患者さんに被害を及ぼすことはなかったが、日常診療の現場で、“ヒヤリ”としたり、“ハッ”とした経験を有する事例のことです。

ヒヤリ・ハット事例は、蓄積され、リスクマネジメント担当チームが分析して、医療機関全体のシステム改善にフィードバックします。それでも、医療事故をゼロにすることは難しいでしょう。人は必ず間違えるものだからです。

患者さんを少しでも良くしようという目標は、医療従事者も患者さん、患者さんの家族も同じはずです。しかし、すべての病気が治癒することはなく、私たちが考えているゴールと、患者さん側が考えているゴールがずれていることはよくおきます。

患者さん側に現状を認識する力がないと、私たちとしては自然と思える結果も、患者さん側には思わぬ結果となり、感情的なもつれに発展することがあります。

医療従事者と患者さん側のコミュニケーションが、いかにとれているかにつきるのですが、自分が考えていることを、わかりやすく、正しく、誤解のないように伝えるのは、本当に難しいことだと、いつも思っています。


医療事故調査制度

平成27年(2015年)10月から、医療事故調査制度が始まりました。医療事故調査制度は、医療事故が発生した医療機関で院内調査を行い、その調査結果を第三者機関の医療事故調査・支援センターに報告し、そこで結果の分析を行うしくみのことです。

そもそも、何を医療事故というのでしょう。

この制度では、「医療事故とは、医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産であって、当該管理者が当該死亡または死産を予期しなかったもの」と定義されています。

結局、医療事故かどうかを決めるのは、医療機関の管理者ということになります。

ちがった見方をすれば、遺族からみて不審な死亡でも、医療機関側が予期された死亡であると考えていれば、医療事故ではないということになります。

もちろん、医学的に正しい判断をすることが、医療機関に求められています。

医療機関は、医療事故が発生した場合、まずは遺族に説明を行い、医療事故・調査支援センターに報告します。その後、速やかに院内事故調査を行います。院内事故調査は、原則として、外部の医療の専門家の支援を受けながら調査を行います。院内での調査終了後に、調査結果を遺族に説明し、医療事故・調査支援センターに報告します。

遺族または医療機関は、医療事故調査・支援センターに調査を依頼することもできます。ただ、その場合は、いちからセンターが調査するわけではなく、院内事故調査の記録や事実確認などの検証を行うことになっています。

この制度の目的は、医療事故の再発防止であり、責任追求を目的としたものではないとされています。しかし、報告書を訴訟に使用することは可能となっています。

そもそも事故かどうかも医療者側が判断し、調査も関係者のよって行われるわけですから、遺族が納得する形で調査が行われ行くのかが心配です。

事故を起こした医療関係者側から言えば、調査報告書が訴訟の証拠にされる可能性もあるので、自分の首を絞めるような報告はしたくない、という心理が働く可能性もあります。

医療訴訟の多くは、遺族と医療者のコミュニケーションがうまくいかないときに起こるものです。せっかくの医療事故調査制度が、かえって、医療者と患者関係者の信頼感を奪い、訴訟の舞台にならないかと心配しています。


日本は医療ミスで何人死んでいるか

厚生労働省などからいくつかの報告があり、いずれも推計値なのでばらつきがあるが、年間に2〜4万人ではないかと推測される。ただ、医療ミスというのは、実態の把握が難しいので、なかなか実数がつかめない。

がんの切除部位を間違えたり、患者を取り違えたり、明らかにミスとわかるものがある一方、医師側としては避けられないこと、想定していたことでも、それが患者側にうまく伝わっていないこともある。

患者側はミスと思っていることが、医師側がミスと思っていないこともあり、何も医療ミスと考えるかで、数字は大きく変わってしまう。

人為ミスの実態が把握できないことや、ミスを防ぐために仕組みが整っていないことが問題だと指摘している。

これは、日本にもあてはまることで、誰がミスを起こしたかではなく、どうしたらミスが無くなるのかというシステムを作っていくという視点が必要だ。

日本では、2015年10月から、医療事故が発生した場合、第三者機関に調査結果を報告、集約して、再発防止につなげる「医療事故調査制度」が始まっている。

しかし、この仕組みは始まったばかりで、当初の予想より報告数も少なく、まだ充分に機能するところまでは至っていない。


医療事故調査制度の該当性

医知場にいただいた質問です

医療事故調査制度で「予期せぬ死亡」は医療事故調査制度に該当しますが、この法律でいう「予期せぬ死亡」とは「死亡そのものを予期しなかった」ということに限るのでしょうか。
たとえば、「予期せぬ事が起きた」その事が原因で亡くなっても、亡くなってしまうまでに死亡の可能性が説明(予期)されていれば、「予期せぬ死亡」にならない(医療事故調査対象ではない)のでしょうか。
つまり、予期しないことが起きた時に死亡する可能性があると説明されていれば、「予期しなかったことが起きてしまった事」そのものについては、事故調査制度対象にはならないという解釈でよいのでしょうか。よろしくお願いします。

医知場からの回答です

医療事故調査制度の「予期せぬ死亡」については曖昧なところがありますが、
私の解釈では、
予期せぬ死亡とは、死因となった病気について予期できていたかどうかで、
単に「亡くなる可能性がある」という説明で、すべて予期していたことにはならないと考えています。
ただし、最終的な診断名が心不全や呼吸不全であっても、
それがもともとの病状の悪化によって説明できれば、予期されたものと考えています。
この解釈が正しいかどうかについては、ご意見があれば、ぜひ、お聞かせいただきたいと思います。

医療事故調査制度の該当性

2016年9月26日

8 件のコメント

  • ありがとうございます。障害がでなかったら医療過誤にはならないのでしょうか?
     いたみはあります。違う病気もあるので、障害はありますが、このくすりではないとおもいます。
    ただ、飲まなくていいはずのものをずっとのまないといけなくなり、また、薬代もかかります。今は難病で1割ですが、3割になります。副作用も継続していくでしょう…。どうなんでしょうか?

  • 難病と診断されて何年も薬を飲み続けています。
    しかし、転居から転院し、転院先の医師から難病ではないといわれました。長期摂取しているため薬をやめると副腎不全をおこすので薬はこれから先も飲み続けないといけないといわれました。ようは誤診です。大きな病院で、そこの科でみれる病気ですが、誤診をした医師は専門医の資格者リストに名前がなく、転院先の医師からは、難病と診断したことが理解ができないといわれました。副作用もあります。
    医療過誤でしょうか?

    • コメント、ありがとうございます。
      お薬はステロイド薬のことかと思いますが、診断に間違いがあり、必要のない薬を内服して障害を残した場合は、医療過誤となるかもしれません。ただし、投薬の必要性については、処方を開始した当時の医療水準やガイドラインなどから判断する必要があります。
      まずは、弁護士等と相談の上、対応をお考えになってはどうでしょうか。

  • 以前から医療ミスに訪問看護師にもミスがありました。
    なのに謝罪もなければ薬を更に強いの渡されてました。
    今、病院側から脅迫されています。
    どうしたらいいでしょうか?
    夫に言っても何言ってるのって信じてもらえません。

    • コメントありがとうございます。
      医療者と患者さんのコミュニケーションがうまくとれないと、
      医療行為に対しての誤解が生まれてしまいます。
      病院やご家族と、よくご相談の上、治療をお続けください。

  • 1ヶ月前に父を医療過誤で亡くしました。
    胆管結石の内視鏡手術、1週間で退院との手術前説明でしたが…
    一度目の手術で穿刺穿孔したと思われ、三度の手術を受けた後、1週間で亡くなりました。
    病院側は◯◯さんは極稀なケースとのことで、こちらは怒りがおさまりません。
    父の遺志もあり、医療過誤専門の弁護士さんにお願いし、これから証拠保全やらの着手を待っているところです。
    決着までに3年は掛かり、費用も70万円プラス成功報酬と高額ですが、病院側の良いようにはさせません‼️

    どらえもんさんにも訴訟であれ、示談交渉であれ良い結果がありますことを願っています。

  • 病院の対応が、今ひとつよく理解できないのでお教えください。
    妻が手根管手術を傷口小さく済むということで、内視鏡にて受けました。
    内視鏡での手術はスムーズに終了したようでしたが、内視鏡を抜くときに、
    無理やり妻や看護師も医者が呟いた抜けないという言葉
    その後の無理やり引き抜いた行動あり。
    術後の医者が言う言葉には、納得いかないと妻、手は腫れ上がり、今まで何ともなかった指が、
    うまく動かない、腫れは一段と腫れ上がり再三の妻の訴えにも
    僕は失敗していないの一点張りと、他の先生に聞いてもそのような事はある、だから僕のせいではなく
    他所からの痺れ痛みと言う事で、全く違う手術を勧められたりとしていくうち腫れ痛さとも限界になり
    他所の手の専門医に診察に行くと、緊急手術と言う事で、診察を受けました。
    手術の結果、神経を内視鏡が弄って寸断され癒着も始まり、手遅れ寸前の状態でした。
    その結果を、はじめ手術してくれた病院に伝えると、調査させてくれと1週間の予定が
    音沙汰なく、こちらから電話すると うやむや状態何度かあり、何度も再度手術した先生の結果状況を
    伝える中、事務長はじめ執刀医も、事実を認め謝罪ありました。
    しかし、謝罪はあったものの、こちら側にどうして欲しいのかとの一点張りで、こちらからの、要望
    院長先生はこの事についてどう思われているのか、少し話したいと伝えてるにもかかわらず、院長と会う、話すと言う事は
    コンプライアンス違反になるから、私たちが話を聞きますとのこと、それから数か月治療費は出してくれていると言うものの
    、長くなるにつれ、病院側の言うには、保険対応で保険屋の弁護士と話をしてください、病院側は一切お金は出しません
    と言う始末、
    半年たつも症状ほとんど良くならず、症状固定という判断になりました、自分たちは良く分からないですが、妻は、この後の
    仕事も付くことできず、毎日痛い思いしながら少しずつ良くなることに期待して、毎日リハビリに努めなくては成らないとのこと
    医療裁判は、費用も時間もかかるからと、やめた方がいいと、言われました。
    このままでは、定年まじかで収入も減っていくばかり、妻との二人三脚収入の予定も崩れ、途方に暮れかけています。
    支離滅裂な文で、すいません
    この気持ちうまく伝われば、幸いです

    • 個人情報に関することですので、匿名に変えさせていただきました。

      手術後に機能障害が残るようなケースは、医療過誤である可能性があり、
      まずは、医療訴訟に詳しい弁護士に相談されてはいかがでしょうか。
      医療裁判の費用や時間も含めて、まずは、弁護士に相談することが第一歩です。

      医療機関側としては落ち度が無いのに、訴訟をちらつかせて慰謝料を要求されることもあり、
      医療過誤と解釈されるような発言や態度を見せないようにしていることもあります。

      しかし、医療機関との交渉は、個人で行うには限界がありますので、
      法テラスなどの相談窓口を通して、まずは、弁護士と相談することをおすすめします。

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