糖尿病性腎症とは、糖尿病の合併症によって腎臓の働きが悪くなった状態です。
腎臓では、小さな血管が糸球体という塊をつくり、血液中の成分をふるい分け、濾過された老廃物は尿として外に出されます。血糖が高い状態が続くと、糸球体の血管壁が厚くなり、濾過能力が低下して、タンパクが尿にもれだしてきます。このように、糖尿病によって腎臓の働きが悪くなった状態を、糖尿病性腎症といいます。糖尿病性腎症は、ゆっくりと進行し、糖尿病発症後20-30年で透析が必要になることがあります。
近年、アルブミン尿が増加せずに腎機能が低下する非典型的な腎障害が増えているため、糖尿病性腎臓病 (DKD) という言葉が使われるようになっています。
アルブミン尿
糖尿病性腎症は、尿にタンパクの一種である微量のアルブミンがでることから始まります。アルブミン尿は通常の検尿検査ではわかりません。
尿検査で、尿タンパクがでていない陰性の場合でも、アルブミン尿はでている可能性があります。微量なアルブミン尿をみつけるためには、専用の検査をしなくてはいけません。糖尿病性腎症が進行すると、通常の検尿検査で尿タンパクが持続的にでるようになります。
午前中の尿のアルブミンを測定し、血液中のクレアチニン値で補正したアルブミン/クレアチニン比(ACR)が30mg/gCr以上を微量アルブミン尿と判定します。
尿タンパクは、病気でなくてもでることがあります。激しい運動をした後、発熱の後、ストレスのかかったとき、立ちっぱなしのときなどにも、一過性に陽性になることがあります。また、糖尿病性腎症以外の、腎臓病でも陽性になることがあります。
糖尿病性腎症の進行
- 糖尿病性腎症の進行程度は、5期に分類されています。
- 第1期(腎症前期)
- まだ微量アルブミン尿がでない時期。
- 第2期(早期腎症)
- はじめのうちは、血糖コントロールが悪かったり、運動した後にだけ、一過性のアルブミン尿がでるようになる。しだいに、持続的にアルブミン尿がでるようになる。
- 第3期(顕性腎症)
- アルブミンだけではなく、タンパクが尿中にでる。腎機能は徐々に低下し、体のむくみ(浮腫)を認めるようになる。
- 第4期(腎不全期)
- 腎機能がさらに低下し、腎臓が十分に働かない腎不全という時期になる。
- 第5期(透析療法期)
- 腎不全のために、透析が必要になる。
病期 | 尿アルブミン値(mg/gCr) あるいは 尿タンパク値(g/gCr) | GFR(eGFR) (mL/分/1.73m2) |
第1期(腎症前期) | 正常アルブミン尿(30未満) | 30以上 |
第2期(早期腎症期) | 微量アルブミン尿(30-299) | 30以上 |
第3期(顕性腎症期) | 顕性アルブミン尿(300以上) あるいは 持続性タンパク尿(0.5以上) | 30以上 |
第4期(腎不全期) | 問わない | 30未満 |
第5期(透析療法期) | 透析療法中 |
糖尿病性腎症の治療
- 血糖コントロール
- HbA1c 7%未満を目標に、個別に血糖値の目標を設定する。
- 血圧コントロール
- 130/80mmHg未満を目標に、確実な血圧コントロールが必要。腎機能が低下していない時期は、アンジオテンシン阻害薬が降圧剤の第1選択。
- 130/80mmHg未満を目標に、確実な血圧コントロールが必要。
- タンパク制限
- 第3期からは、タンパク質の摂取制限が必要なことがある。
- 生活習慣の改善
- 減量、塩分制限、アルコール制限、禁煙など
- 脂質異常症など、合併する他の病気のコントロールも十分に行う。
<参考>
日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド 2020-2021」
日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2018」
腎不全の患者65歳女子です。今日の検診で尿ACRが180.55でHになっていました。甘いものを控えるだけで値は変わるのでしょうか?クレアチニンは1.67です。教えて下さい。腎嚢胞もあります。
永井さん、コメントありがとうございます。
まだまだ、大事に使えば、十分に使える腎臓だと思います。
腎機能は、もちろん血糖コントロールが重要ですが、
血圧、脂質など総合的な治療が必要です。
とくに、血圧のコントロールは大事ですから、まず、減塩を。
さらに、カロリー量が正しいのか。必要以上に制限する必要はありません。
タンパク質の量も、制限した方が良いときがあります。
かかりつけの先生や、栄養士の先生などの意見も聞いてください。
単に、甘い物を控えておけばいいというわけではありませんので、
ぜひ、栄養指導を受けてください。
たいへん貴重な質問ですから、次回は、Q&Aコーナーへのご質問をお待ちしています。