先日、熱中症というふれこみで患者さんが外来にやってきました。屋外で作業していたところ、倦怠感が強いとのことで受診されました。診察したときの体温は36℃台。しかし、よく聞くと、昨夜は38℃の発熱があり、今朝、市販の解熱剤を飲んでいました。強い倦怠感が昨日から続いているし、数日前に居酒屋で飲んだということでした。そこで、新型コロナの検査をしたところ、簡易検査キットで陽性。PCR検査でも陽性で、新型コロナ確定の診断がつきました。
これから、暑い時期になると増えてくる熱中症。体温が上がることが主な症状ですが、実は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との鑑別が難しいといわれます。とくに、救急の現場では混乱をきたす危険性があります。
1.マスクを着用して長時間の運動をすると熱中症になりやすいので、運動をするときは1時間以上マスクを着用するのは避けましょう。
2.室内の換気方法としては、2方向の窓を常時、できるだけ開けて、連続的に室内に空気を通すことが推奨されていますが、換気により室内温度が高くなるため、エアコンの温度設定を下げるなどの調整をして、温度設定をこまめに行いましょう。
3.熱中症と新型コロナウイルス感染症を臨床症状だけから鑑別するのは困難です。
- 熱中症では、発汗、口渇、虚脱感や倦怠感、めまい、頭痛、嘔気・嘔吐、筋肉痛や筋痙攣、意識障害などの症状がみられます。
- 一方、COVID-19では、発熱、呼吸器症状(咳嗽、咽頭痛、鼻汁、鼻閉など)、頭痛、倦怠感、嗅覚障害・味覚障害などの症状がみられます。
- 熱中症にもCOVID-19にもみられる症状=発熱・意識障害・倦怠感や頭痛、筋肉痛・胃腸障害、嘔気・嘔吐・呼吸困難
- 熱中症にはない症状=嗅覚障害・味覚障害
- 嗅覚障害や味覚障害はCOVID-19を疑う根拠にはなりますが、臨床症状のみから両者を鑑別することは困難です。
4.熱中症とCOVID-19の鑑別に有用な血液検査の項目はありません。したがって、血液検査で両者を見分けることは困難です。
5.高体温、意識障害で熱中症を疑う患者のCT検査はCOVID-19の鑑別診断には有用性は低いが、診断の助けになることがあります。
6.体表面を水で湿らせ、扇風機で蒸発させる蒸散冷却法は、行わない。
- 熱中症患者には、蒸散冷却法(スプレーや霧吹きで全身の体表面を水で湿らせたうえで、扇風機や団扇でその水分を蒸発させることにより、体表から気化熱を奪って体外から冷却する方法)、冷水シャワー、局所冷却、血管内冷却、クーリングマットなどの冷却装置を用いた冷却法などがありますが、いずれも、医療従事者に接触感染のリスクがあることに注意すべきです。
- とくに蒸散冷却法は、体表から水分が蒸発して発生したエアロゾルの中に、体表面や呼気に存在するウイルスが取り込まれ、扇風機により生じた気流に乗って、救急外来や病院内の広い範囲に拡散する危険性があります。直接診療していない医療従事者や他の患者にも感染の危険が広がることになり危険です。
<参考>
日本救急医学会・日本臨床救急医学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会「新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)」(2022年7月)
厚生労働省「熱中症予防のための情報・資料サイト」
コメントを残す