帯状疱疹ウイルスは、水痘(すいとう、みずぼうそう)の原因ウイルスで、水痘にかかったときに、体の中に入りこみます。水痘は治っても、ウイルスは神経節(神経の束が集まって太くなっている場所)に潜んで生き残ります。ふだんは何も悪さはしませんが、ストレスや老化などで免疫力が低下すると、ウイルスが活動を始めることがあります。これが、帯状疱疹(たいじょうほうしん)です。
帯状疱疹は、神経に沿って広がるのが特徴で、皮膚には赤みを伴った小さな水疱(水ぶくれ)ができ、神経を刺激して激しく痛みます。水疱をつくるウイルスの病気には、ほかに、単純疱疹(単純ヘルペス)がありますが、顔面(とくに口唇)や性器に水疱をつくることが多く、帯状疱疹とは別の病気です。
帯状疱疹は体の中で休眠しているウイルスが、免疫力の低下によって再活性化して起きる病気です。他人から感染する(うつる)病気ではありません。
すでに水痘(みずぼうそう)にかかった方、成人の90%以上が帯状疱疹に対する抗体がありますが、水痘にかかったことのない方は、皮疹に接触することで感染し、水痘を起こす可能性がありますので、小さな子供との接触は避けてください。
症状
- 神経に沿った痛みや痒みが数日続いたあと、
- 虫さされのような赤く腫れた皮膚の変化が現れ、
- 小さな水疱(みずぶくれ)が多発してきます
- 水疱は中央にくぼみがあり、中身は初め透明ですが、黄色い膿様になり、
- 破れて、ただれてきます
- 数日は皮疹が新しく現れ、広がりますが
- 約2週間で痂皮(かさぶた)となり、
- ひと月ほどかかって、治癒します
合併症
- 皮膚細菌性二次感染:皮疹に溶連菌やブドウ球菌が感染して感染症をおこします
- 帯状疱疹後神経痛:皮疹が治ったあとも、痛みが続きます
- 眼合併症:角膜・強膜・結膜炎、視神経炎、緑内障など
- 脳炎:昏睡、けいれん、脳梗塞
- ベル麻痺:片側性顔面神経麻痺
- ラムゼイハント症候群:耳痛、外耳道水疱、舌前方のしびれ、顔面神経麻痺
- 聴覚障害:難聴
- 運動神経炎:筋力低下、横隔神経麻痺、神経因性膀胱
- 横断性脊髄炎:麻痺、知覚麻痺、括約筋障害
帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹の皮疹が治ったあとも痛みが持続し、数ヶ月から数年も続くことがあります。「焼けるような」「締めつけるような」「ズキンズキンとする」痛みを訴えます。
帯状疱疹の10−50%に帯状疱疹後神経痛が生じるといわれます。高齢になるほど、合併するリスクが上がってきます。
ラムゼイハント症候群
帯状疱疹が、耳の奥にでき、顔面神経麻痺や、めまい、難聴などの内耳神経の症状が現れるのが、「ラムゼイ・ハント症候群」です。「ラムゼイ・ハント症候群」は、突発的に起きる顔面神経麻痺(ベル麻痺)と比べて、治りが悪く、半数に麻痺が残るといわれています。治療は、抗ウイルス薬とステロイドの投与が基本です。まれに、重症化することがあり、帯状疱疹のなかでは注意が必要な病気です。
検査
- 症状や皮疹の状態から診断することがほとんどです。
- 鑑別が難しい場合は、水疱の内容物からウイルスDNAや抗原を検出する方法や、血液中の抗体価を測定する方法があります。
治療
- 帯状疱疹は抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル)の全身投与を出来るだけ早期に開始することが大切です。
- 重症では、入院をして、抗ウイルス薬(アシクロビル、ビダラビン)の点滴が必要になることがあります。
- 皮膚の治療には、抗炎症薬や抗菌薬の軟膏を使用することがあります。
予防
帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹の発症を抑え、重症化予防、とくに帯状疱疹後神経痛の予防に有効な方法です。とくに、乾燥組換えワクチン(シングリックス)では、約97%の発症予防効果があることが報告されています。
帯状疱疹ワクチンを受けましょう
50歳以上の方は、帯状疱疹ワクチンの接種が可能です。接種費用は全額自己負担となりますが、自治体によっては助成金の補助が受けられます。とくに、60歳以上で帯状疱疹を発症したことがない人は、帯状疱疹後神経痛を予防するためにも、ワクチンの接種が推奨されています。
- 帯状疱疹ワクチンの種類と効果
名称 | 乾燥弱毒性水痘ワクチン (ビケン) | 乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス) |
種類 | 生ワクチン | 不活化ワクチン |
対象 | 50歳以上 | 50歳以上、または、 18歳以上で帯状疱疹にかかるリスクの高い人 |
接種回数 | 1回 | 2回(2~6か月後に2回目) |
接種方法 | 皮下注射 | 筋肉内注射 |
発症予防効果 | 約70% | 約97% |
効果の持続 | 5年程度 | 9年以上 |
接種費用 (自治体によっては助成あり) | 7,000円~11,000円程度 | 20,000円~23,000円程度/回:2回接種が必要 |
50歳以上の方は、帯状疱疹ワクチンを接種することで、発症や重症化の予防に効果があります。帯状疱疹ワクチンは、2つの製品(ビケン、シングリックス)があり、効果や接種対象、投与法、値段に違いがあります。ワクチン接種に伴う一般的な副作用には、接種部位の腫れや痛み、発熱、倦怠感などがあります。ただし、これらの症状は通常軽度で、一時的なものです。シングリックスは、値段は高いのですが、効果や持続の点からおすすめしています。ビケンは生ワクチンであり、妊娠している人、免疫抑制剤を服用している人には接種できませんので、ワクチンの接種に当たっては、必ず、医師とご相談ください。
帯状疱疹ワクチンは、50歳以上を対象とした「任意接種」で、全額自己負担となりますが、料金の一部が助成される自治体もあります。
*任意接種は、あくまでも個人の意思で受けるかどうかを決めるものです。接種費用は全額自己負担となり、副作用による障害に国の責任はありません。任意接種による被害がおきた場合は、製薬会社による拠出金によって運営される医薬品医療機器総合機構が補償することになっていますが、これはワクチンそのものに問題がある場合で、投与量を誤るなどの医療機関での問題については、補償の対象にはなりません。
<参考>
日本皮膚科学会HP「ヘルペスと帯状疱疹」(2023年8月21日閲覧)
国立感染症研究所「帯状疱疹ワクチン ファクトシート」(2017年2月10日)
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