医者の僕からも見ても、多すぎる薬を処方されている患者さんがたくさんいます。薬局からポリ袋いっぱいの薬を持って帰る患者さん。車がないと一度では持ち帰れないと嘆く患者さん。
病院や診療所から、必要以上に大量の薬をもらうことを「ポリファーマシー」といいます。
- ポリ(poly)=多量の、多数の
- ファーマシー(pharmacy)=薬、薬屋
ファーマシーには薬屋の意味もありますから、まさに、薬を売れるくらい処方されている状態です。
自分に置き換えてみると、1日に1錠の血圧の薬でさえ、飲んだか、飲まないか、わからなくなることがあります。ましてや、10種類以上もの大量の薬を、高齢者の方が、きちんと処方通りに飲むことができているのかは疑問です。
薬によって、食後、食前、寝る前と飲み方が分かれ、1日に1回、2回、3回と回数もばらばら。記憶力の衰えた高齢の方が、複雑に飲み方の違う薬を、毎日、間違いなく飲むのは至難の業です。
たとえば、糖尿病の薬は、1日1回の薬を、間違えて、食事のたびに飲んでしまうと、3倍の量を飲むことになり、低血糖を起こしかねません。決まった量を、決まった時間に服用することは、薬の作用にも、副作用にも重要なことなのです。
たくさんの薬を飲むことになるのは、処方される患者さんにも原因があります。
高齢者のなかには、とにかく、いろいろな症状を訴える方が多く、そのたびに薬が増えていくことがあります。医者も、患者さんから、「あの医者は薬をだしてくれない」といって不満をいわれると、言い訳のように薬を処方してしまいます。もちろん、これは言い訳にすぎません。
また、患者さんによっては、2カ所、3カ所と違う診療所で、同じような症状を訴え、同じような薬をいくつも処方されていることがあります。
内科の診療所だけでなく、整形外科にも、脳神経外科にも通い、合わせたら、10数種類の薬を飲んでいた。痛み止めと胃薬など、同じ系統の薬が重複して処方されていた。そんなことが後からわかって、びっくりすることがあります。
薬の副作用は、2種類の薬の間では報告されていますが、それが何種類も重なると何が起きるかというデータはありません。
薬は必要最低限のものを処方するのが基本ですし、医者の大事なスキルだと思っています。患者さんも、そのことを理解してもらい、いたずらに薬だけで解決すると思い込まないようにしてください。
今後、IT化がすすみ、かかりつけ薬局による管理が広がれば、薬の重複、過剰投与といった問題が解消されていくと思います。それにしても、薬に頼りすぎる日本人の悪癖は治す必要があると思っています。
薬がもったいない
たくさんの薬を処方されている高齢の患者さんが、薬局から大きな袋を下げて帰っていきます。こんな量の薬を、きちんと飲めているのかと心配になります。調査の結果、やっぱり、飲めていないことがわかりました。
薬が余っている状態を、残薬(ざんやく)といいます。
- 厚生労働省の調査では
- 患者に残薬を確認した結果、残薬を有する患者がいた薬局は約9割である。
- 患者に残薬確認をした結果、残薬を有する患者はどのくらいいるか?(薬局調査 n=998)
- 頻繁にいる 17.1%
- ときどきいる 73.2%
- 患者に残薬確認をした結果、残薬を有する患者はどのくらいいるか?(薬局調査 n=998)
- 医薬品が余ったことがある患者が約5割存在する。
- 医薬品が余った経験があるか?(患者調査 n=1,927)
- 大量に余ったことがある 4.7%
- 余ったことがある 50.9%
- 医薬品が余った経験があるか?(患者調査 n=1,927)
- 薬局や患者の調査では、残薬が発生する理由として、「飲み忘れ」や「自己判断で中止すること」、「処方日数と受診間隔が合わなかった」が多く、多剤処方や量が多いことを理由とする回答も2−3割程度存在した。
- 残薬が発生している理由はどのようなものが多いですか(複数回答、薬局調査 n=1,682)
- 多剤処方や用法が複雑なため
- 自己調節や自己判断により服薬を中止したため
- 処方日数と受診間隔が合わなかったため
- 外出時に持参するのを忘れたため
- 医療用医薬品が余った(残った)理由は何ですか(複数回答、患者調査 n=1,759)
- 種類や量が多く、飲む時間が複雑で飲み忘れた
- 病気が治ったと自分で判断し飲むのをやめた
- 処方された日数と医療機関への受診の間隔が合わなかったため
- 外出時に持参するのを忘れたため
- 残薬が発生している理由はどのようなものが多いですか(複数回答、薬局調査 n=1,682)
薬局も、朝の分、昼の分、夜の分など、薬をまとめて一袋にする「一包化」や、飲み忘れ防止のカレンダーを作ったり、余った薬の日数を合わせる「残薬調整」をしたり、いろいろと工夫をしているのですが。
やはり、処方を受けている患者さんに、「薬が余るともったいない」という意識や、「飲み方がわからない・難しい」、「薬が多すぎて管理できない」といった率直な気持ちを、主治医の先生と相談して欲しいと思っています。
そして、医者側も、患者さんが管理できるような薬の数、飲み方などを工夫して、きちんと薬を飲むところまでが、医者が薬を処方する、という意識をもつことが、プロとして大事なことだと考えています。
<参考>
平成25年度厚生労働省保険局医療課委託調査「薬局の機能に係る実態調査」
平成26年度厚生労働省保険局医療課委託調査「薬局の機能に係る実態調査」
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