セファゾリンは、手術の感染予防や皮膚の感染症などに第一選択薬として広く使われている抗菌薬です。
2019年3月にセファゾリンという抗菌薬が1つの企業から供給困難となった。これにより代用可能な他の抗菌薬も不足する状態を招き、多くの医療機関で適切な感染症の治療に問題が生じている。
抗菌薬の安定供給に向けた4学会の提言 2019年8月30日
日本化学療法学会、日本感染症学会、日本臨床微生物学会、日本環境感染学会
セファゾリンは、中国で原料が製造され、イタリアで原末が作成されていますが、この原料は世界で中国のこの1社でしか製造されていません。セファゾリンに限らず、抗菌薬の原料のほとんどが、中国などの外国で製造されているのが現状です。
これは、日本の抗菌薬の薬価が安いために、製薬会社の採算があわずに、次々と撤退したからです。
たとえば、セファゾリンナトリウム1gの国が決めた薬価は109円、製造コストは140円で明らかに採算割れですから、無理もありません。
今回のセファゾリン不足は、国内シェア60%を占める1社が供給停止となり、他社のセファゾリンに切り替えたが、その在庫も底をつき、別の抗菌薬で代用したが、それも供給不足となり出荷調整となっています。仕方なく、別の抗菌薬を使っていますが、一番効果があり、副作用の少ない抗菌薬を選ぶことができないという状態になっています。
抗菌薬不足は、セファゾリンから次第に他の重要な抗菌薬へと広がり、現場は最も効果のある切り札が使えないというジレンマに陥っています。
世界は、経済戦争という混沌とした時代に向かっています。今回の抗菌薬不足は、「日本人の健康を守るために必要な薬は、国内での生産を確保する」という安全保障の問題を浮き彫りにしています。
とくに重要な抗菌薬については、日本国内で製造できる体制を、国策として構築すべきです。そのためには、少なくとも採算割れをしない程度に薬価をひきあげるなど、製薬会社が抗菌薬の製造を再開するために、何らかの優遇措置が必要です。
最初に引用した4学会は、とくに重要な抗菌薬をkey drugとして選定し、安定した供給体制をつくるように、国に要請しました。選定した薬剤は、以下の10薬剤です。
- ペニシリンG
- アンピシリンナトリウム/スルバクタム
- タゾバクタム/ピペラシリン
- セファゾリン
- セフメタゾール
- セフトリアキソン
- セフェピム
- メロペネム
- レボフロキサシン
- バンコマイシン
いずれも、医療の現場では代役のきかない最重要な薬で、この薬が手に入らなくなれば、今まで助けることができた肺炎や尿路感染症、腸管感染症などで命を落とす人がでてくることは避けられません。
抗菌薬は人類が手にいれた最高の薬といわれます。その薬の安定供給を確保することは、日本人の安全を守るために必要な投資です。
<参考>
抗菌薬の安定供給に向けた4学会の提言(2019/8/30)
日本化学療法学会・日本感染症学会・日本臨床微生物学会・日本環境感染学会
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