心筋症

動悸

心筋症とは、心臓の壁の筋肉が変化して、心臓の機能が低下する進行性の病気です。代表的な心筋症は、肥大型心筋症と拡張型心筋症です。

日本心臓財団HPより引用

1.肥大型心筋症

心臓の壁が厚くなり、心臓に流れ込む血液の量が制限されて、心臓から十分に血液を送り出すことができなくなります。

自覚症状

  • 労作時息切れ
  • 呼吸困難
  • 胸痛・胸部絞扼感(胸のしめつけられる感じ)
  • 動悸
  • 立ちくらみ・眼前暗黒感・失神などは突然死の前駆症状のときがあります

肥大型心筋症の約60%に遺伝性があり、そのうちの40−60%に心筋の収縮に関連するサルコメア遺伝子の異常があります。全身疾患の症状として心肥大をおこす心筋症を、二次性心筋症といい、原因によっては治療効果が期待できるため、鑑別が重要になります。

肥大型心筋症と鑑別が必要な二次性心筋症

  • 糖原病(Pompe病、PRKAG2遺伝子異常、Danon病、Forbes病)
  • ファブリー病
  • ミトコンドリア病(MELAS病、MERFF病)
  • 神経筋疾患(Friedreich失調症、FHL-1遺伝子異常)
  • Ras/MAPK関連蛋白異常(Noonan症候群、LEOPARD症候群、Castello症候群)
  • 心アミロイドーシス
  • 急性心筋炎
  • 内分泌疾患(糖尿病母体からの出生児、褐色細胞腫、巨人症)
  • 薬剤(ステロイド、タクロリムス、ヒドロキシクロロキン)

診断

  • 心電図:左室高電位、ST-T変化(巨大陰性T波)
  • 血液検査:BNPや心筋トロポニンが上昇
  • 画像診断:
  • 心エコー検査(15mm以上の心肥大あり)
  • 心臓MRI検査
  • 心臓カテーテル検査・心筋生検

治療

  • 薬物治療:β遮断薬、Ca拮抗薬、抗不整脈薬など
  • 非薬物治療:ペースメーカ、経皮的中隔心筋焼灼術、心筋切除術、ICD(植込み型除細動器;突然死の予防)

経過

  • 一般に病気の経過は良好ですが、危険な不整脈や心不全の進行がすすむことがあります。若年者では運動中の突然死、高齢者では心不全や不整脈に合併した脳塞栓症が死因となることがあります。重症の方では、心移植が必要になることがあります。

2.拡張型心筋症

心臓の壁が薄くなり、心臓が広がったままとなって収縮力が低下するため、ポンプとしての機能が低下します

明らかな原因はわかっていませんが、ウイルス感染や免疫異常との関連が注目されています。一部の拡張型心筋症は遺伝すると考えられています。

拡張型心筋症と鑑別が必要な他の心筋症

  • 虚血性心筋症
  • 高血圧性心疾患
  • 心サルコイドーシス
  • アミロイドーシス
  • 心筋炎
  • 筋ジストロフィーに伴う心筋症
  • アルコール心筋症
  • ミトコンドリア心筋症
  • 薬剤性心筋症
  • ファブリー病
  • 周産期心筋症(産褥性心筋症)

自覚症状

  • 労作時の息切れ
  • 夜間の発作性の呼吸困難
  • 起座呼吸(寝ると息苦しいため、座ったままの姿勢ですごす)
  • 浮腫(むくみ)

診断

  • 胸部レントゲン:心拡大、胸水
  • 血液検査:BNPが上昇
  • 画像診断:
    • 心エコー検査(左心室の収縮力低下と容積拡大)
    • 心臓MRI検査
    • 心臓カテーテル検査・心筋生検

治療

  • 薬物治療:β遮断薬、ACE阻害薬、ARB阻害薬、アルドステロン拮抗薬、ジギタリスなど
  • 非薬物治療:両心室ペースメーカ、補助循環・補助人工心臓、心臓移植

経過

  • ゆるやかに進行していく病気で、心移植が必要になることがあります。薬物、非薬物治療の進歩により予後は改善しています。

3.拘束型心筋症

心臓の壁や動きは正常にみえますが、心臓の壁が硬く広がりにくくなり、心臓の機能が低下します。日本では他の心筋症に比べて非常に少なくまれな疾患で、アフリカやインド、中南米に多い病気です。

自覚症状

  • 動悸、息切れ、浮腫(むくみ)
  • 不整脈(心房細動)
  • 塞栓症(心臓のなかに血のかたまりである血栓ができ、それがはがれて脳や腎の血管が詰まる脳塞栓症や腎塞栓症が起きやすくなる)

治療

  • 現状では有効な治療がなく、心不全、不整脈、血栓・塞栓症の予防を行います

心筋症患者さんの日常管理

  1. 運動
    • 軽いスポーツ(ビリヤード、ボーリング、ゴルフなど)を除き、競技スポーツは禁止が必要な場合がある
    • 状態の安定した慢性心不全患者を対象に心臓リハビリテーションが有効な場合がある
  2. 食事と飲水
    • 塩分制限が必要
    • 脱水には注意
  3. アルコール
    • 肥大型心筋症では禁酒
  4. 喫煙
    • 禁煙
  5. 性生活
    • 十分な薬物治療で状態が安定していることが前提
  6. 妊娠・出産
    • 無症状で内服治療の必要がない軽症例では、妊娠の経過は良好であることが多いが、慎重な経過観察が必要で、急激な心機能低下が起こるリスクはある。
    • 心不全が進行している例では、厳重な注意が必要であったり、妊娠を避けざるを得ないこともある。
    • コントロール不良の心不全例では、帝王切開による分娩が必要となることがある。
  7. 感染予防
    • インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種をすすめる
  8. 就労
    • ほとんどの仕事は継続可能
    • 重労働については専門医と協議
  9. 余暇と旅行
    • 安全に航空機旅行が可能
    • 長時間の移動や、高地・高温多湿な地域への良好には注意が必要
  10. 心理的支援
    • 不安や抑うつ症状を抱えることが多く、必要に応じてカウンセリングを受けることができるように準備する

<参考>
日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)

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