深部静脈血栓症とは、体の表面から深いところを流れる深部静脈に血液の固まり(血栓)ができる病気です。ほとんどが足にでき、とくに太もも(下腿部)に多く発生します。
血栓がはがれると血流にのって心臓から肺へ流れ込み、肺の血管がつまって肺塞栓(はいそくせん)という極めて重症の病気を起こすことがあります。肺塞栓によって完全に肺への血流が止まってしまうと、呼吸ができなくなり死亡する危険性もあります。飛行機内で座ったままの状態が続くと、深部静脈に血栓でき、急に立ち上がったときに血栓が血流にのって肺塞栓をおこす「エコノミークラス症候群(旅行者血栓症)」が知られています。
症状
- 膝から上にできる中枢型と、膝から下にできる末梢型に分かれます。
- 中枢型の三大症状:腫脹(腫れ)、痛み、色調変化(赤黒色→茶色)
- 末梢型の症状は主に痛みですが、無症状の方も多いです。
- 片方の足や太ももが急に赤黒く腫れ、痛みます。腫れが続くと皮膚が茶色に変色し、ひどくなると皮膚の一部が腐ったようになることもあります。
- 中枢型は、抗凝固療法などの治療を行わないと約30%が再発します
危険因子
手術、肥満、うっ血性心不全、慢性肺疾患、脳血管障害、抗リン脂質抗体症候群、薬物(エストロゲン製剤、経口避妊薬、ステロイド薬など)、長距離旅行による旅行者血栓症(エコノミークラス症候群)などは、深部静脈血栓症を起こすリスクが高くなります。
診断
- 症状、診察、Dダイマー、画像診断を行い、診断を進めます。
- Wellsスコアは、深部静脈血栓症の確率を推定するのに有用です。
Wells スコア(DVT用)
臨床的特徴 | 点数 |
活動性の癌(6カ月以内治療や緩和的治療を含む) | 1 |
下肢の完全麻痺、不全麻痺あるいは最近のギプス装着による固定 | 1 |
臥床安静3日以上または12週以内の全身あるいは部分麻酔を伴う大手術 | 1 |
下肢深部静脈分布に沿った圧痛 | 1 |
下肢全体の腫脹 | 1 |
腓腹部(脛骨粗面の10cm下方)の左右差>3cm | 1 |
症状のある下肢の圧痕性浮腫 | 1 |
表在静脈の側副血行路の発達(静脈瘤ではない) | 1 |
DVTの既往 | 1 |
DVTと同じくらい可能性のある他の診断がある | -2 |
低確率 | 0 |
中確率 | 1-2 |
高確率 | ≧3 |
検査
- 血液検査
- Dダイマーは、血液の固まりやすさを反映する深部静脈血栓症の診断に有用なマーカーです。ただし、炎症性疾患、急性大動脈解離、動脈瘤、閉塞性動脈硬化症、手術後、感染、播種性血管内凝固(DIC)、悪性腫瘍、肝硬変症、外傷、加齢などでも上昇しますので、総合的な判断が必要です。
- 画像診断
- 超音波検査(下肢静脈超音波検査)
- 造影CT・MRI(MRV:MR静脈造影)検査
- 下肢静脈造影
治療
- 血液が固まるのを抑え、血液を流れやすくする、抗凝固療法を行います。
- 抗凝固薬には、ヘパリン、ワルファリン、フォンダバリヌクス、DOAC(直接トロンビン阻害薬、第Xa因子阻害薬)などがあります。
- そのほかに、点滴やカテーテルから血栓を積極的に溶かす血栓溶解療法、カテーテルや外科手術によって血栓摘除を行う治療法などがあります。
予防
- とくに手術後や出産後、入院中などは臥床が続き、血栓ができやすくなります。できるだけ早期に離床を促し、運動を行うことが重要です。また、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法、予防的に抗凝固療法が行われることがあります。
<参考>
肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)
コメントを残す