背景
大腸菌は、家畜やヒトの腸内に存在し、ほとんどのものは無害です。しかし、大腸菌の種類によっては、ヒトに下痢などの消化器症状を起こすことがあります。
大腸菌は、菌の表面のO抗原とH抗原によって細かく分類されています。O157は、ベロ毒素を産生し、出血を伴う腸炎や、溶血性尿毒性症候群を引き起こす「腸管出血性大腸菌」の一種です。腸管出血性大腸菌のほとんどがO157ですが、他に、O26, O111, O128, O145などがあります。
O157は、気温の高い初夏から初秋にかけて多発します。しかし、気温の低い時期でも発生しますので、注意は必要です。
1982年、米国ミシガン州とオレゴン州で、同じファミリーレストランのハンバーガーによるO157の集団食中毒が世界で初めて発生しました。米国では、年間に2~3万人の患者が発生し、200~300人が死亡しています。
1996年には、日本全国で爆発的な発生があり、この年の患者総数は17877人、死者12人。特に大阪府堺市では小学校給食がO157に汚染され、10000人を超える患者が発生しました。その後は、年間3000~4000人の患者が発生しています。
症状
- 水のような下痢
- 腹痛
- 血便(鮮血が多量、頻回にでることがある)
- 嘔吐
- 発熱
溶血性尿毒症症候群は、ベロ毒素によって腎血管内皮細胞が破壊されて起こり、貧血、血小板減少、腎機能障害を特徴とする病気です。特に小児や高齢者に起こりやすい病気です。次のような場合は、溶血性尿毒症症候群を起こしやすいので注意が必要です。
- 初期から腹痛、血便、発熱の程度が強い
- 血液検査で白血球数やCRP値が高い
- 血液検査で総蛋白やアルブミン値が低下している
検査
O157の確定診断のためには、便の培養検査が必要です。
感染経路
O157は牛の大腸に生息しています。牛の便で汚染された肉や野菜、水を介して経口感染します。この菌は数十個から100個の菌で感染を起こすために、患者や保菌者の便を介してさらに感染が広がることがあります。
日本でO157による感染源と推定されたものは、井戸水、牛肉、牛レバ刺し、ハンバーグ、牛角切りステーキ、牛たたき、ローストビーフ、サラダ、貝割れ大根、シーフードソース、シカ肉、キャベツ、白菜漬け、日本そば、メロンなどです。
潜伏期間
2~14日(平均3~5日)
治療
安静と水分の補給が重要です。経口摂取が不可能な重症者には、点滴で水分を補います。溶血性尿毒症症候群は、専門医療機関での治療が必要です。
抗生物質の投与が一般的に行われます。小児には、ホスホマイシン、カナマイシン、ノルフロキサシンなど。成人には、ニューキノロン薬、ホスホマイシンなど。乳酸菌製剤を併用することも一般的です。
予防
食品は衛生的な取り扱いが必要です。ヒトからヒトへの感染を予防するために、排便後、食事の前、下痢をしている子供や高齢者の排泄物の世話をした後には、せっけんと流水で必ず手を洗いましょう。
O157は、75℃で1分間以上の加熱で死滅します。野菜のO157を除菌するには、湯がき(100℃の湯で、5秒間程度)が有効です。
<参考>
厚生労働省「腸管出血性大腸菌O157等による食中毒」
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