肺塞栓症とは、肺動脈が血栓(血液に固まり)によってつまってしまう病気で、その90%は足の静脈でできた血栓が原因です。大きな血栓で血管がふさがると、ショック状態や突然死をおこす危険な病気です。血栓によって血管が塞がれるので、正式には「肺血栓塞栓症」とよびます。飛行機内で座ったままの状態が続くと、深部静脈に血栓でき、急に立ち上がったときに血栓が血流にのって肺塞栓をおこす「エコノミークラス症候群(旅行者血栓症)」が知られています。
肺血栓塞栓症(PTE:pulmonary thromboembolism)の原因は、ほとんどが深部静脈血栓症(DVT:deep vein thrombosis)によるもので、この2つの病気は関連が強いので、あわせて、静脈血栓塞栓症(VTE:venous thromboembolism)とよばれています。
メカニズム
- 足の静脈にできた血栓(深部静脈血栓症)がはがれて、血流にのって心臓を通過し、肺の血管(肺動脈)をつまらせます。
- 血液は、静脈→心臓→肺動脈→心臓→大動脈から全身に流れます。
危険因子
手術、肥満、うっ血性心不全、慢性肺疾患、脳血管障害、抗リン脂質抗体症候群、薬物(エストロゲン製剤、経口避妊薬、ステロイド薬など)、長距離旅行による旅行者血栓症(エコノミークラス症候群)などは、深部静脈血栓症を起こすリスクが高くなります。
予後
急性に塞栓がおきた場合、全体で死亡率は14%、ショック状態となると30%が死亡すると報告されています。心筋梗塞より死亡率の高い病気です。
症状
- 呼吸困難
- 胸痛
- 失神
- 咳・血痰
- 動悸(ドキドキ)・喘鳴(ゼーゼー)
PTEの可能性を評価する方法(Wellsスコア、ジュネーブ・スコア)
検査
- スクリーニング検査:肺塞栓症の可能性があるかどうかをおおまかに診断するために最初に行う検査
- 胸部X線検査・心電図
- 血液検査:動脈血ガス分析、Dダイマー
- 心臓超音波検査
- 診断を確定させるための検査
- 造影CT
- 肺シンチグラフィ・肺動脈造影
- 下肢(足)の深部静脈血栓症の有無を検査:肺塞栓症の多くは下肢静脈の血栓が原因となるため
治療
- 血液が固まるのを抑え、血液を流れやすくする、抗凝固療法を行います。
- 抗凝固薬には、ヘパリン、ワルファリン、フォンダバリヌクス、DOAC(直接トロンビン阻害薬、第Xa因子阻害薬)などがあります。
- そのほかに、点滴やカテーテルから血栓を積極的に溶かす血栓溶解療法、カテーテルや外科手術によって血栓摘除を行う治療法などがあります。
- また、再発を予防するために、心臓に流れ込む大きな静脈(下大静脈)にフィルターを留置して、足からの血栓が心臓に入り、さらに肺の血管がつまるのを防ぐ治療を行うことがあります。
<参考>
合同研究班「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017改訂版)」
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