ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(N Engl J Med)という有名な医学雑誌から、認知症関連の記事を紹介したいと思います。
N Engl J MedのClinical Practice(臨床問題)という医師向けのコーナーから引用します。「Advanced dementia. Mitchell SL. N Engl J Med 2015;372:2533-40.」
Advanced dementiaは進行した認知症ということです。表現としては強いですが、ここでは末期認知症と訳しました。
問題
- 89歳、男性、介護施設入所中。10年前から、アルツハイマー病あり。
- 38.3℃の発熱、咳・痰あり。呼吸数28回/分。
- 看護師の報告では、6ヶ月前から食事のときに咳があり、むせることがあった。
- 彼は、記憶力がひどく低下し、自分の娘(キーパーソン)がわからなくなり、寝たきりの状態で、2-3個の単語をブツブツ繰り返すだけで、日常生活は介助なしに何もできなくなっていた。
- 施設の看護師が、「入院させたほうがいいだろうか?」と尋ねてきた。
- あなたは、この患者さんをどう評価し、治療しますか?
回答
- 末期認知症は、米国の主な死因の一つである。
- 特徴として、深刻な記憶力低下(たとえば、家族が認識できない)、言葉がでない、歩行できない、介助なしで日常生活を送ることができない、尿や便失禁がある。
- 合併症でもっとも多いのは、嚥下や拒食などの食事の問題、肺炎などの感染症である。これらの合併症は、治療を続けるかどうかの選択が必要になる。
- アドバンス・ケア・プランニング(今後の治療について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合うこと)が、治療方針決定の土台となる。治療方針は、目標とするゴールに沿って決定されるべきである。キーパーソンの90%以上が、患者の平穏な生活がもっとも重要なゴールと考えている。
- チューブから強制的に栄養する経管栄養が、末期認知症の患者の予後を改善するというデータはなく、経管栄養は推奨されない。
- 一方、緩和ケアにはいくつかの利点が示されている。末期認知症の患者は、症状を緩和するケアが提供されるべきである。
医知場の解説
この記事は、米国の医療事情に基づいたものですから、日本にすべてが当てはまるわけではありませんが、きわめて本質的な問題をついた論文でした。
認知症は、徐々に進行し、死に至る病気です。認知症にはいくつかのタイプがありますが、最も多い「アルツハイマー病」は発病してから平均して10年で死亡するといわれます。
まず、この病気の本質を理解する必要があります。単に記憶力が低下して、ボケるだけの病気ではありません。
認知症が進行して末期状態になると、食物の飲み込むことができなくなります。この時期になると、誤嚥による肺炎を繰り返し、それが原因で亡くなることが多くなります。
胃ろうをつくりチューブから栄養剤を流し込む方法がありますが、これは病状を回復させるために治療ではありません。また、胃ろうをつくっても誤嚥性肺炎は起きます。
認知症が進行して、患者さんが自分で治療を選択することができなくなった場合、子供さんなどのキーパーソンと治療方針を話し合うことになります。
このとき、優先されるのは「患者さん本人なら、どんな治療を選ぶだろうか」という患者本人の意志を思い量る姿勢です。患者さん本人の人生の最期の選択であって、ご家族の感情で決めるものではないと考えます。
患者さんが、自分の意志で最期の治療を決定できなくなる認知症では、自分で意思表示ができる間に、今後の治療方針をかかりつけ医と相談したり、家族に話をしておくといった準備が必要です。
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