乳がん

乳腺エコー

背景

乳がんは日本人の女性では最も多いがんです。年に9万人を超える女性が乳がんにかかります。日本では欧米に比べて乳癌患者は少ない傾向にありましたが年々増加傾向にあり、1999年から胃がんを抜いて、女性のがんの第1位となりました。これは生活習慣の欧米化により、食事中の動物性脂肪が増えていることが原因と考えられています。

危険因子

  • 初潮年齢の若い人・閉経年齢の遅い人
  • 最初の出産年齢が遅い人(35歳以上)
  • 出産回数の少ない人
  • 母親が乳がんになった人
  • 動物性脂肪の多い食事、高カロリーの食事

遺伝性乳がん

  • 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(BRCA1, BRCA2遺伝子変異)
    • BRCA1/2遺伝子のいずれかに遺伝子変異がある人の約80%は70歳までに乳がんを発症し、BRCA1変異がある人の約40%、BRCA2変異がある人の約20%が卵巣がんを発症するという報告あり
  • Li-Fraumeni症候群(TP53遺伝子変異)
  • Cowden症候群(PTEN遺伝子変異)

診断

自覚症状

  • 乳房のしこり乳房の皮膚の変化(えくぼのようなくぼみ、赤くはれる)、
  • わきの下のしこり、
  • 腕のむくみ(わきのリンパ節のはれによる症状)

検査

  1. 乳房X線撮影(マンモグラフィー)
    • さわるだけでは見つからない小さながんをみつけることができます。厚生労働省の指針では、40歳以上の女性は2年に1度、マンモグラフィーによる検診をすすめています。
  2. 乳腺超音波検査
    • 超音波検査でしこりの位置を確認しながら、しこりに細い注射針を刺して、その細胞を調べることで、しこりの良・悪性を判定することができます。
  3. 骨シンチ(またはPET-CT)
    • 乳がんは骨に転移しやすいがんです。骨シンチは、放射性同位元素を使って骨への転移を調べる検査です。
    • 放射性同意元素FDGを使ったPET検査は、骨だけでなく、全身の転移を調べることができる最新の検査方法です。
  4. 腫瘍マーカー
    • CEA, CA15-3:がんを発見するためのものではありませんが、治療効果の判定に有効です。
  5. 病理診断
    • ホルモン受容体(エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)):内分泌療法の効果予測
    • HER2:抗HER2薬の効果予測
    • Ki67:予後予測因子として有用だが、薬物療法の治療効果予測に有用という確定はない
    • BRCA1/2遺伝子変異:PARP阻害薬使用の根拠
    • PD-L1:免疫チェックポイント阻害薬を使用するためには必須

治療

治療法の選択

臨床病期(がんの進行段階)によって治療法が分かれます。

  • Ⅰ期:がんの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)への転移がない
  • Ⅱ期:がんの大きさが2cm以下で腋窩リンパ節への転移が疑われる、または、腋窩リンパ節の転移の有無に関係なく、がんの大きさが2~5cmである
  • ⅢA期:腋窩リンパ節へ転移しリンパ節の癒着がある、または、転移した腋窩リンパ節の癒着はないが、がんの大きさが5cmを超える
  • ⅢB期:がんが乳房内から皮膚や胸壁に広がる
  • ⅢC期:鎖骨周辺のリンパ節への転移がある
  • Ⅳ期:遠隔臓器(骨、肺、肝臓など)への転移がある

治療効果の予測

  1. ホルモン受容体
    • 女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンの受容体をもつ乳がんは、内分泌療法の効果が期待できます。
  2. HER2
    • 乳がんに関連するがん遺伝子です。抗HER2療法の効果が期待できます。

治療内容

1.Ⅰ期からⅢA期

Ⅰ期からⅢA期の乳がんは、外科手術が基本になります。
再発予防のために、術後に追加治療(術後補助療法)を行うことがあります。

  • 手術
    • 乳房を全部切除する方法(乳房切除術)と乳房の一部を切除する方法(乳房温存手術)とに大きく分けられます。
      • 乳房切除術
        • がんの大きさが大きい、小さくても乳管(乳を集めて乳頭に運ぶ管)内を広がるがん、乳房内に多発しているがんは、乳房全体を切除する手術が必要になります。
      • 乳房温存手術
        • 早期の乳がんに対しては、乳房の一部を切除する乳房温存手術が行われます。乳房温存手術は、乳房をある程度保つことができるので美容的なメリットがありますが、手術後に再発予防の放射線照射を行う必要があります。
  • 術後補助療法
    • 手術後の再発を防ぐために行われる治療です。リンパ節転移、閉経状況、ホルモン受容体、年齢、がんの大きさ、組織学的な悪性度によって、内分泌療法と化学療法を組み合わせて治療を行います。
  • 術後内分泌療法
    • 女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンの受容体をもつ乳がんは、女性ホルモンに反応してがんが増殖します。内分泌療法は、女性ホルモンの働きを抑えることでがんの増殖を抑えます。
  • 術後化学療法
    • 再発リスクの高い場合は、手術後にアンスラサイクリンやタキサンなどの抗がん剤を投与することがあります。
  • 術後放射線療法
    • がんの大きさが5cm以上、または腋窩リンパ節転移が4個以上の場合は、胸壁・リンパ節に放射線治療を行うことが勧められています。

2.ⅢB期またはⅢC期

  • ⅢB期以上のがんは、手術を行うことが難しいため、まず抗がん剤投与による化学療法が優先されます。
  • ホルモン受容体が陽性の場合は、術後内分泌療法に準じた内分泌療法が行われます。
  • 化学療法や内分泌療法によりがんの縮小が認められたときは、手術や放射線療法による追加治療が検討されます。

3.Ⅳ期

  • ホルモン受容体(ER、PR)、HER2、転移の進行程度により、治療方法が選択されます。
  • 肺や肝臓へ生命が脅かすほどの転移がある場合は、治療効果の早い化学療法が行われます。
  • HER2が陽性の乳がんには、抗HER2薬が有効で、化学療法との併用も行われています。
  • ホルモン受容体が陽性の場合は、術後内分泌療法に準じた内分泌療法が行われます。

<参考>
国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん」
日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン2022年版」
NCCN「Breast Cancer Guidelines Version 2.2023」

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