長引く咳は、医学的に、慢性咳嗽(まんせいがいそう)といいます。具体的には、3週間以上咳が続くときを、慢性咳嗽と定義します。
原因
慢性咳嗽の原因で頻度が多いのが、
- 咳喘息(せきぜんそく)
- アトピー咳嗽
- 副鼻腔気管支症候群
- かぜ症候群後の咳嗽
- 胃食道逆流による咳嗽
1. 咳喘息
- 咳だけを症状とする喘息の亜型で、頻度が高い
- 咳は、就寝時、深夜、早朝に悪化しやすい
- 上気道炎、冷気(クーラー)、運動、喫煙、雨天などが増悪因子
- 痰はないか、あっても少量
- 喘鳴(ぜいめい:ゼーゼーと息をすること)はない
- 女性に多い
- 約30-40%に喘鳴が出現し、喘息に移行する
- 治療は喘息と同様で、主に気管支拡張剤+ステロイド薬の吸入を行います
2.アトピー咳嗽
- のどのイガイガ感を伴う痰のない咳
- 中年の女性に多い
- 就寝時、深夜から早朝、起床時、早朝に多い
- 冷気(クーラー)、暖気、会話、電話、他人のタバコ、運動、香水などで誘発される
- 喘息以外のアトピー疾患の既往歴や合併、家族歴が高頻度
- 末梢血好酸球数、血清IgE、特異的IgE抗体などのアトピー素因が陽性になることが多い
- 気管支拡張薬が無効で、ヒスタミンH1受容体拮抗薬やステロイド薬が効果的
3.副鼻腔気管支症候群
- 慢性副鼻腔炎に慢性気管支炎、気管支拡張症、もしくは、びまん性汎細気管支炎が合併
- かぜやのどの炎症をきっかけに痰のある咳がでるようになる
- 後鼻漏(鼻の奥に降りてくる感じ、垂れてくる感じ)、鼻汁および咳払いといった副鼻腔炎症状をしばしば伴う
- 喘鳴を伴う呼吸困難発作を認めない
- 上咽頭や中咽頭に粘液性の分泌物(後鼻漏)を認めることがある
- X線写真、CT検査で、副鼻腔炎の画像所見を認める
- 喀痰培養で、肺炎球菌、インフルエンザ菌などがしばしば検出
- 血清IgA高値、血清寒冷凝集素価の上昇をしばしば認める
- 治療では、マクロライド系抗菌薬と去痰薬の併用が有効
- 気管支拡張薬、H1受容体拮抗薬、抗アレルギー薬および副腎皮質ステロイド薬はいずれも無効
4.かぜ症候群後の咳嗽
- かぜの後に咳が長引くことがあり、中高年の女性に多い
- 原因は明らかでない
- 他の慢性咳嗽をきたす疾患を除外する必要がある。
- 咳は、自然に軽快することが多い
5.胃食道逆流による咳嗽
- 胃酸が食道に逆流することによって、咳がおきる
- 胸やけや、酸っぱいものが上がってくるなどの胃酸逆流の症状を伴うことがある
- 咳が会話、食事中、体動・就寝・起床直後・上半身前屈・体重増加などのタイミングで悪化
- 咳き込んで嘔吐してしまう
- 胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬)で咳がおさまる
6.その他
- 高血圧の薬であるACE阻害薬の副作用で、咳が続くことがあります。
- その他にも、胃酸逆流をおこしやすくして咳を誘発する、カルシウム拮抗薬、ミノマイシンなどの抗菌薬、抗コリン薬、テオフォリンなどが原因になることがあります。
咳が3週間以上続く場合は、上のような病気を念頭に置いて、抗生剤(マクロライド系)の内服や、吸入ステロイド薬、胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)などから、治療方法を選択します。治療に反応しない場合などは、専門医療機関での精密検査が必要なことがあります。
<参考>
咳嗽・喀痰の診療ガイドライン 2019 日本呼吸器学会編.
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