麻しんは、麻しんウイルスによって起きる発疹と発熱を伴う全身の感染症です。
感染力は非常に強く、免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症し、一度感染すると一生免疫が持続し、再感染はありません。日本はワクチン接種の徹底もあり、WHO(世界保健機関)から2015年に「国内に土着のウイルスがいない排除状態になった」と認定されました。その後は、海外からウイルスが持ち込まれ、感染するケースがでています。
日本では、2023年に入って、海外から持ち込まれた方からの感染、感染経路が不明の感染が、5月17日時点で計7名、報告されています。
世界的に新型コロナの影響で麻疹ワクチンの接種率が下がっているため、世界各地で麻疹の流行が起きています。日本でも麻疹ワクチンの接種率が低下しています。もう一度、ご自分やご家族の麻しんワクチンの接種歴を母子手帳などで確認しましょう。
症状
- 麻しんウイルスに感染してから10−12日ほどして、熱やのどの痛み、咳など風邪に似た症状が現れます。この時期をカタル期といい、3-4日続きます。
- その後、倦怠感や咳、鼻水、くしゃみ、結膜炎(目やに、目が赤く充血する、光を眩しく感じる)などの症状が次第に強くなります。
- 体に発疹がでる1−2日前に、口の中に1mmほどの白い小さな斑点(コプリック斑)が現れ、麻しんの診断に役立つのですが、体に発疹が現れて2日目には消えてしまいます。
- コプリック斑がでると、いったん熱は下がりますが、半日くらいで再度高熱がでると、赤い発疹が全身に広がります。発疹は、耳の後ろや首、額から現れ、顔から胸、手足まで広がっていきます。発疹は、はじめは鮮紅色ですが、しだいに暗赤色となり、退色していきます。
- 発疹が現れてから3−4日すると回復期に入り、7−10日後には体力がもとに戻ってきます。しかし、免疫力が低下しているため、しばらくは他の感染症にかかると重症化しやすくなるので、注意が必要です。
合併症
- 肺炎:乳児では死亡例の6割は肺炎が原因です。
- 脳炎:1000例に0.5-1例の頻度で合併し、思春期以降の麻しんのよる主な死因となります。
- 長い潜伏期間を経て発病する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は、死亡率の高い危険な合併症です。
麻しんの広がり
- 感染経路:空気感染(空気中をウイルスが漂うため、距離が離れていても感染するリスクがある)
- 潜伏期間:曝露後10-12日間
- 感染可能期間:発疹出現の前後4日間
- 隔離期間:発疹出現後4日間
治療
麻しんの特効薬はありませんので、症状を和らげる治療が主体になります。予防接種(ワクチン)により感染を予防することが、最も重要な対策です。
麻しんは感染力が強く、空気感染をするので、手洗いやマスクといった通常の予防では対応できません。
麻しんの患者さんに接触した場合、72時間以内に麻しんワクチンを接種すると効果が期待できます。ワクチン接種によって、95%以上の人が麻しんを予防できるといわれています。1歳になったら1回、小学校入学前の1年間にもう1回予防接種を受けましょう。
麻しんの流行がみられる国に渡航される方で麻しんにかかったことのない方は、予防接種を考えましょう。多数の患者報告があるのは、アジアおよびアフリカ諸国で、とくに中国、インド、モンゴル、パキスタン、ナイジェリアの報告が多い状況です。
妊娠と麻しん
- 妊娠中に麻しんにかかると流産や早産を起こす危険性があります。
- 妊娠前で、予防接種を受けていない方や麻しんにかかっていない方は、ワクチン接種を考えましょう。すでに妊娠している方は、ワクチンを接種できません。
- 麻しん流行時に、同居者で麻しんにかかる可能性が高い人(たとえば、ワクチンの2回接種が完了していない医療従事者や教育関係者など)はワクチン接種について、医師に相談してください。
亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis : SSPE)
亜急性硬化性全脳炎は、麻しんウイルスが脳内に持続的に感染することで生じ、一度発症すると、数カ月から10数年の経過で進行し、自然に治ることはきわめてまれな病気です。麻しんにかかってから、5−10年の潜伏期を経て発症します。2歳未満に麻疹にかかると、SSPEを発症するリスクが高いといわれています。発症頻度は、8000人に1人という報告がありますが、実際はもう少し高い可能性があります。
初期の症状は、知能低下や行動異常、ミオクローヌス(筋肉がピクピクとけいれんする)がみられ、病状はゆっくりと進行していきます。いまだ、確立された根治療法はありません。
- 症状
- 初期症状:成績の低下などの認知障害、落ち着きのなさ・易刺激性・無関心などの行動異常、記憶力低下(高次脳機能障害)
- 進行すると、全身性の不随意運動(ミオクローヌス)という特徴的な症状が現れる
- 特徴的な症状が現れるまでは、発達障害やうつ病などの精神疾患、心理的な問題と診断されるケースもある
- 検査
- 血清および脳脊髄液の麻疹抗体価の上昇、とくに脳脊髄液の抗体価上昇は特異的
- 脳波:周期性同期性放電(PSD)
- 頭部MRI:頭頂-後頭葉の白質病変、病巣は多彩
- 治療
- イノシンプラノベクス(イソプリノシン)内服とインターフェロンの脳室内投与療法の併用
<参考>
厚生労働省「麻しんについて」
国立感染症研究所「麻しんとは」
国立感染症研究所「麻疹 発生動向調査」
CDC「Global Measles Outbreaks 」
プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班「亜急性硬化性全脳炎診療ガイドライン2020」
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