バセドウ病

甲状腺は、首の前側、のど仏のすぐ下にある、蝶型の小さな臓器です。蝶の羽にあたる側葉は、縦4-5cm、横1.5cmほどです。

甲状腺は、ヨードを原料に甲状腺ホルモン(T3, T4)を作っています。甲状腺ホルモンは、心臓や肝臓、腎臓、脳など全身の臓器に働いて、細胞の代謝を調節するのに大切な働きをしています。

代謝とは、車のエンジンのようなものです。車は、アクセルを踏み込むと、エンジンの回転数が上がり、速度が速くなりますよね。甲状腺ホルモンは、人間の体にアクセルのように働いて、臓器の働きを活発にします。甲状腺ホルモンは、アクセルが効きすぎたり、ブレーキが効きすぎて、暴走しないように、複雑に調節されています。

甲状腺ホルモンの調節がうまくいかなくなり、甲状腺ホルモンの量が過剰になった状態を、甲状腺機能亢進症(または甲状腺中毒症)といいます。逆に、甲状腺ホルモンが減った状態を、甲状腺機能低下症といいます。

甲状腺機能亢進症の約70%が、バセドウ病です。バセドウ病は、免疫のバランスがくずれ、抗体が自分の甲状腺を刺激するようになった自己免疫疾患です。

  • バセドウ病は
    • 男女比は1:5-10で、女性に多い
    • 20-30歳代の発症が多い
    • 有病率は、人口1000人あたり5人程度で、頻度が高い

バセドウ病は、動悸、甲状腺腫、眼球突出が3大症状といわれますが、実際は、ほかにも多彩な症状を認めます。

  • 主な症状
    1. 体重減少、倦怠感、易疲労感、微熱
    2. 動悸、息切れ
    3. 手の振るえ(振戦)
    4. 発汗過多(多汗)
    5. 食欲亢進、軟便・下痢
    6. 月経不順、過小月経、無月経
    7. いらいら、不安感、落ち着きのなさ、不眠
    8. 筋力低下、周期性四肢麻痺
    9. 若年者では、神経過敏、易疲労感、動悸、暑がり
    10. 高齢者では、体重減少、食欲減退といった症状が目立ちます

身体所見

  • びまん性甲状腺腫(甲状腺全体が腫れる)
  • 眼症状:眼瞼後退、眼球突出、眼瞼腫脹
  • グレーフェ(Graefe)徴候:下方視させると、眼が開いて白目の部分がみえる。
  • 振戦:手指が細かくふるえる
  • 温かく湿った皮膚、手掌紅斑、爪甲剥離、脱毛
  • うっ血性心不全、下肢の浮腫
  • 前頸骨粘液水腫:下腿の頸骨前面に左右対称にオレンジの皮のような固い隆起

検査成績

  • 総コレステロール低値
  • アルカリホスファターゼ(ALP)高値
  • 食後急速に血糖値が上昇する(oxyhyperglycemia)

内分泌検査

  • 血中甲状腺ホルモン高値(FT4, FT3)
  • 血清TSH著明低値(多くは測定感度以下)
  • 抗TSH受容体抗体陽性
  • 抗TPO抗体、抗Tg抗体も高頻度で陽性

画像検査

  • 甲状腺超音波検査:甲状腺全体が腫大し、甲状腺内の血流が増加
  • 甲状腺放射性ヨウ素またはテクネシウムシンチグラフィ:摂取率が高値、甲状腺全体に分布

治療

  • 抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)
    • 頻度は低いが生命にかかわる重症な副作用[無顆粒球症(白血球数の減少)、重症肝障害]があり、とくに内服開始から3ヶ月間は注意が必要
    • 発熱や咽頭痛、黄疸、血痰、血尿があるときは、直ちに医療機関に相談すること
    • 重症例にはヨウ化カリウムを併用することがある
  • 放射性ヨウ素(131I):妊婦には禁忌
  • 手術(甲状腺亜全摘出)
    • 甲状腺が大きい
    • 抗甲状腺薬に副作用がある
    • 経過が長い
    • 腫瘤を合併している場合などが適応
  • 喫煙は病状に悪影響をおよぼすことが明らかです

診断基準バセドウ病の診断ガイドライン(甲状腺疾患診断ガイドライン2021)

  • a)臨床所見
    1. 頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等の甲状腺中毒症所見
    2. びまん性甲状腺腫大
    3. 眼球突出または特有の眼症状
  • b)検査所見
    1. 遊離T4、遊離T3のいずれか一方または両方高値
    2. TSH低値(0.1μU/ml以下)
    3. 抗TSH受容体抗体(TRAb)陽性、または甲状腺刺激抗体(TSAb)陽性
    4. 放射性ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率高値、シンチグラフィでびまん性
  • バセドウ病:a)の1つ以上に加えて、b)の4つを有するもの
  • 確からしいバセドウ病:a)の1つ以上に加えて、b)の1、2、3を有するもの
  • バセドウ病の疑い:a)の1つ以上に加えて、b)の1と2を有し、遊離T4、遊離T3高値が3ヶ月以上続くもの
    • 付記
      1. コレステロール低値、アルカリフォスターゼ高値を示すことが多い。
      2. 離T4正常で遊離T3のみが高値の場合が稀にある。
      3. 眼症状がありTRAbまたはTSAb陽性であるが、遊離T4およびTSHが基準範囲内の例はeuthyroid Graves’ diseaseまたはeuthyroid ophthalmopathyといわれる。
      4. 高齢者の場合、臨床症状が乏しく、甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意をする。
      5. 小児では学力低下、身長促進、落ち着きの無さ等を認める。
      6. 遊離T3(pg/ml)/遊離T4(ng/dl) 比は無痛性甲状腺炎の除外に参考となる。
      7. 甲状腺血流増加・尿中ヨウ素の低下が無痛性甲状腺炎との鑑別に有用である

<参考>
バセドウ病治療ガイドライン2019 日本甲状腺学会編. 南江堂 2019.
甲状腺疾患診断ガイドライン2021 日本甲状腺学会

甲状腺

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