医療保険をつかって診察や治療をおこなうことを保険診療といいます。保険診療のもとでは、診察や検査の料金、薬の値段まで、とにかくすべての値段が国によって決められています。この値段を診療報酬(しんりょうほうしゅう)といいます。いわば、国が決めた病気の料金表です。
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診療報酬は、厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会で2年ごとに改定され、令和6年(2024年)6月から新しい診療報酬に変わっています。診療報酬の改定では、まず、全体の医療費が決まり、それにあわせて個別の料金を調整していきます。今回の改定では、技術料に相当する診療報酬の本体が+0.88%引き上げられましたが、大半が看護職員や薬剤師、事務職員などの賃上げに使われることになっています。
診療報酬の改定は医療機関の収入に直結しますから、国は特定の分野の料金を上げたり下げたりして、医療機関の経営方針を誘導する意図があります。医療機関としても、決められた料金表にあわせて、採算が合うように変わらざるを得ないからです。
病院の機能について説明したいと思います。
病院は、その病院がもつ機能によって、次のように分類することができます。ひとつの病院のなかに、いくつかの機能をもっている場合もあります。
- 救急や手術などを行い、短期で退院させる=急性期
- 急性期を引き継いで治療を行う=亜急性期
- 退院に向けてリハビリを行う=回復期
- 長期の入院が必要な患者さんのため=慢性期
診療報酬では、料金をいくつかにランク分けし、設備やスタッフ数などに条件をつけることで、医療機関を機能分けしています。国が診療報酬を決めているということは、日本中の病院の舵取りしているわけです。医療費の増加を抑えるためには、機能ごとに必要な病院の数を決めて、そこに患者を集中させれば、より効率的という考えです。
しかしながら、利益が上がらなければ、設備や人に投資ができないので、医療機関は決められたルールのなかで利益を確保しようとします。国の規制の下で経営している以上、診療報酬改定のたびに、国と医療機関とのせめぎ合いが起きるのは当然です。
高齢化がすすめば、税収は下がり、医療費が増えるのは避けられません。しかし、日本の財政はますます先が見えず、最大の支出である医療と福祉を切り捨てようとする圧力がかかっています。
国は医療費の増加を抑えるために、二つの方法で病院のベッド数(病床数)の削減を始めています。
ひとつは、診療報酬を改定し、中小の急性期病院が対応できない条件をつけることで、急性期の病床数を減らす方法です。今回の診療報酬改定でも、さらに条件が厳しくなりました。
もうひとつは、自治体に病床の稼働率などを報告させ、地域で必要な病床数の計画にあわせて病床を減らしたり、別の機能の病院に転換するように誘導する方法です。
病院はふるいにかけられ、診療報酬の改定に対応できない病院の経営はますます難しくなっています。
それでは、診療報酬のしくみと、なかみについて、説明していきたいと思います。
診療報酬の計算は、医療従事者でも簡単には理解できないほど複雑につくられています。この特集では、複雑な診療報酬をできるだけわかりやすく説明していきたいと思っていますが、一部に簡略化したところもあり、実際の値段そのものよりは、いくらかずれる場合もあることを、ご理解ください。
まず、診療報酬を計算するための基本からお話しましょう。
診療報酬は点数であらわされています。診察の料金が○×点という感じです。1点は10円と決められていますから、点数を10倍したものが料金になります。たとえば、診療報酬の100点は100×10=1000円が料金ということです。
保険の種類によって、料金のうちの何割を自費で払うか(負担率)がきまっていますので、実際に支払う料金は、これに負担率をかけた金額になります。たとえば、負担率が3割のサラリーマンの場合は、1000×0.3=300円が窓口での支払額になります。
料金は、病気の状態に関わらず必要な基本料金と、病気の状態によって変化するオプション料金の合計と考えてください。この基本料金に状況に応じた追加料金が加えられて、診療報酬の基本料金部分が計算されます。
基本料金の追加分を加算(かさん)といいます。たとえば、夜中や休日に診察を受けると、診察の基本料金に追加料金が文字通り加算されます。加算については、またあとで説明します。
医療機関はベッドの数、医者や看護師の数などによってグループ分けされています。このグループによって一部の基本料金に差がつけられています。
入院用のベッド数が20床以上あるところ(ベッドは1床、2床・・・と数えます)を病院とよんでいます。19床以下の施設を診療所とよびます。○○医院、もしくは○○クリニックという看板がでているところは、診療報酬上の呼び方は診療所ということになります。病院は200床以上の大病院と、200床未満の中小病院に分けられ、診療所、大病院、中小病院で基本料金の違いがでてきます。病院は、入院している患者さんの病気の程度によっても分けられていますが、これは入院の料金を説明するときにお話しします。
診療報酬の基本的な考え方をおさらいしておきましょう。
- 診療報酬=病気の料金表
- 診療報酬の1点=10円
- 支払い=料金の合計×保険の負担率
- 料金=基本料金+オプション
- 加算=基本料金の追加料金
- 診療所=入院施設がないか、19人までしか入院できない(19床以下)
- 病院=20人以上が入院できる(20床以上)
- 大病院は200床以上、199床までは中小病院
お金の流れから、日本の医療保険をみてみましょう。
保険料を集めて保険を運営する団体を保険者といいます。国民健康保険では市町村が、会社員の保険(組合健保)では企業の健康保険組合が保険者になります。保険者に対して、保険を受ける人を被保険者といいます。被保険者は所得に応じて保険料をおさめ、その証明として被保険者証(いわゆる保険証)を受けとります。
患者が医療機関を受診したときは、料金の一部を負担金としてその場で支払います。医療機関では、患者の診断名や検査、治療の内容、料金をまとめた明細書をつくります。この診療報酬明細書をレセプトといいます。医療機関では一ヶ月ごとにレセプトを集計して、審査支払い機関に提出します。社会保険では社会保険診療報酬支払基金、国民保険では国民健康保険団体連合会が審査支払い機関となります。審査支払い機関では、病院が請求した金額が妥当かどうかを点検して、審査のすんだ金額を保険者に請求します。保険者は医療機関から請求された金額をもう一度点検して、審査支払い機関を通じて病院へ支払います。
外来、入院、検査、手術、薬など、保険を使う医療のすべての値段が、診療報酬として、国によって決められています。国が決めた公定価格のもとで、保険を使って医療を行うことを保険診療といいます。保険で認められていない、つまり保険が使えない医療は、料金が決められていませんので、自由に料金を決めてよいことになります。これを自由診療といいます。
混合診療とは、保険の範囲内の分は保険で払い、範囲外の分は自費で払うこと、つまり保険診療と自由診療が混合されることをいいます。原則的に、混合診療は認められていません。たとえば、入院して保険で承認されていない薬を使った場合、未承認の薬を使う治療は保険診療とは認められず、自由診療として扱われます。この場合、入院にかかる料金が全額自費負担になってしまいます。
75歳以上の方は、後期高齢者医療保険の対象になります。この保険には75歳以上のすべての人が加入し、これまで国保や社保に分かれていた老人保険制度が一本化されて、独立した保険として運営されます。
保険の運営は各都道府県内の全市町村が一体となった広域連合が行いますが、保険料の徴収は市町村が行います。保険料の支払いや届け出、申請などの窓口は、今までどおり市・区役所、町村の役場になります。保険料は年金から天引きされます。保険料は広域連合ごとに決まり、所得に応じて負担する所得割額と加入者が均等に負担する頭割額の合計になります。保険料は原則として加入者全員が払います。窓口での料金の負担額は、1割負担です。ただし、一定以上の所得のある世帯の方は3割負担になります。自己負担の限度額は、今までと変わりません。
ほとんどの医療機関で、患者さんに料金の詳細な明細書を渡しています。明細書には、診療報酬の内容が細かく書かれていますが、○○料、△△加算など、わからない言葉ばかり並んでいますので、この特集を参考にして、明細書をながめてみてください。
日本の医療制度
日本の医療制度は「社会保険方式」といわれ、保険料を支払った人が給付を受ける仕組みです。すべての国民の加入が法律で義務づけられています。保険料は、民間保険のように病気であるかなどで負担金が変わることはなく、賃金などの負担能力に応じて決まります。社会保険の財源は、本人だけでなく、職場の事業主、国や地方公共団体が負担しています。
諸外国では、ドイツ、フランスが社会保険方式を採用しています。英国やスウェーデンは、税を財源にする「税方式」です。アメリカは、高齢者や障害者に対するメディケア、低所得者に対するメディケイドを国が運営していますが、大半が民間の医療保険です。
医療保険の歴史
第二次世界大戦の戦災により、多くの医療施設が破壊され、医療従事者、医薬品の不足により、日本の医療水準は大きく低下しました。1945(昭和20)年に、占領軍から旧日本軍の陸海軍病院などの返還を受け、国立病院・国立療養所として国民に開放しました。
1948年以降、都道府県や市町村が設置する公立病院に国庫補助が行われ、日本赤十字社、厚生連(厚生農業協同組合連合会)、済生会などの公的医療機関にも対象が拡大されました。しかし、総合的な計画がないままにすすめられた公的医療機関の整備は、乱立が問題視されるようになり、1962年からは公的病院に病床規制が行われるようになりましたた。
一方、民間病院では公的病院のような病床規制は行われず、1950年には医療法人制度が設けられ資金調達が容易になったため、民間病院の開業ラッシュが始まりました。1955年からの10年間で、民間病院の病床数は198,096床から424,224床へと約2倍に増加しました。さらに、1960年からは医療金融公庫(現 独立行政法人福祉医療機構)が、病院や診療所に低金利で融資を行うことになりました。
戦後から間もない頃は、高齢者との同居が一般的で高齢者の介護は家族の仕事と考えられていました。しかし、高齢者が増加し、若者が都市部へ流れるようになると、高齢者の福祉が問題になるようになりました。1963(昭和38)年に老人福祉法が制定され、老人福祉施設(養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム)が設置されるようになりました。
2000(平成12)年には、従来の医療保険に加えて、日本の医療を支えるもう一つの保険制度として、介護保険制度が始まりました。
国民皆保険制度
1961(昭和36)年、国民がいずれかの公的医療保険制度に加入し、保険料を納め、医療機関で被保険者証を提示することで、必要な医療を一定の自己負担で受けることができる、国民皆保険制度が始まりました。
1961(昭和36)年、国民皆保険発足時の患者の自己負担は、被用者保険では本人負担なし、家族が5割、国民健康保険では5割負担でした。1968(昭和43)年、国民健康保険で3割負担に、1973(昭和48)年、被用者保険の家族も3割負担になりました。同年、自己負担の一定額を超える分を支給する高額療養費支給制度がつくられました。
1973(昭和48)年からは、老人医療費支給制度(70歳以上の高齢者に、医療保険の自己負担分を国と地方公共団体が支給することで無料化)が始まりました。
1970(昭和45)年から1975(昭和50)年までの70歳以上の受診者が約1.8倍となり「病院の待合室がサロン化」が問題になりました。また、社会福祉施設に入るより、入院した方が費用が安いため、施設代わりに長期入院する「社会的入院」も増加しました。1982(昭和57)年、高齢者の増加、老人医療費の無料化により、老人医療費は著しく増加したため、患者の自己負担が再開されています。
2008(平成20)年、75歳以上の高齢者を対象にした「後期高齢者医療制度」が作られました。
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