前立腺がんとは
前立腺がんは、日本人の男性が最もかかりやすい癌です。前立腺がんは、ゆっくりと成長し高齢者になってから発見されることが多く、60歳ごろから顕著に増えてきます。高脂肪食、とくに動物性脂肪のとりすぎは前立腺がんの危険因子になります。近親者に前立腺がんが多発している場合や、60歳以下で前立腺がんになった人がいる場合は、遺伝的な素因があるかも知れませんので、注意が必要です。
前立腺は、精子の一部を作り貯蔵する臓器で、膀胱の真下にあり、尿道のまわりをとりかこんでいます。正常の前立腺はクルミ大の大きさですが、前立腺が大きくなると、尿道を圧迫して尿の勢いが弱くなったり、尿の出が悪くなります。
症状
- 頻尿、とくに夜間に多い
- 排尿が困難
- 尿の出はじめ、尿の切れが悪い
- 尿の勢いが弱かったり、尿の出が中断する
- 排尿の時に痛みや灼熱感がある
- 尿や精液に血液が混じっている
- 射精の時に痛い
- 背中、おしり、太ももにたびたび痛みがある
このような症状は前立腺肥大や前立腺炎などの良性の病気でもよく認めます。しかし、早期の前立腺がんでは尿道を圧迫しないため、症状はなかなか現れません。ですから、症状だけから前立腺がんを発見するのは困難です。
検査
- PSA検査
- PSA(ピーエスエー)は、血液検査で前立腺がんをみつけることができる画期的な検査です。PSAは前立腺でつくられ血液の中に放出される、腫瘍マーカーといわれるタンパク質ですが、この数値が高いほど前立腺がんの可能性が高くなります。PSAは前立腺肥大や前立腺炎でも増加することがあるので、PSAが高いからといって必ずがんとは限りませんが、PSAが高い場合は専門医による検査が必要です。
<PSAの判定基準>
- 4ng/ml以下 → 正常です。年1回の定期的な検査を続けましょう。
- 4.1~10ng/ml → グレーゾーン。前立腺がんのほかに、前立腺肥大や前立腺炎などの良性の病気の場合があります。泌尿器の専門医による超音波検査などの二次検査が必要です。
- 10.1ng/ml以上 → 陽性。がんの可能性がありますので、専門医による二次検査が必要です。
(ng:ナノグラム、10億分の1g)
前立腺がんは、PSA検査によって早期に発見することが可能です。50歳を過ぎたら、年1回、PSAを定期的にはかりましょう。
- 直腸診
- 肛門から指をいれて、前立腺をさわって診断する方法です。前立腺は直腸に接しているので、肛門から触診することができます。がんがある場合は、前立腺が石のようにかたかったり、表面が凹凸でゴツゴツしています。
- 画像診断
- 超音波検査
- CT検査
- MRI検査
- 骨シンチグラフィ検査:骨転移の有無を検査
- 前立腺生検
- 前立腺に針をさして、組織検査を行います。顕微鏡でがん細胞の有無を調べます。組織検査の悪性度の指標には、グリーソンスコアが用いられます。この点数が高いほど進行が早く、予後が悪いといわれています。
治療
- 監視療法
- 前立腺生検でみつかった癌の進行が遅い場合、経過観察を行いながら、病状の進行の兆しがでたときに治療を開始する治療法です。
- 内分泌療法
- 前立腺がんは、男性ホルモンで増殖が促進されます。内分泌療法は、男性ホルモンの作用を抑えることで、癌細胞の増殖を抑える治療法です。男性ホルモンは、脳の一部である下垂体からでるLH-RHというホルモンの刺激によって、精巣と副腎から分泌されます。
- LH-RHアゴニスト:男性ホルモンの分泌を抑えます。
- LH-RHアンタゴニスト:男性ホルモンの分泌を抑えます。
- 抗アンドロゲン剤:男性ホルモンが前立腺に作用するのを抑えます。
- 内分泌療法は、副作用として、発汗、ほてり、関節痛、女性化、勃起障害、肝障害、血栓症などをみとめることがあります。
- 前立腺がんは、男性ホルモンで増殖が促進されます。内分泌療法は、男性ホルモンの作用を抑えることで、癌細胞の増殖を抑える治療法です。男性ホルモンは、脳の一部である下垂体からでるLH-RHというホルモンの刺激によって、精巣と副腎から分泌されます。
- 外科療法
- 手術により前立腺を取り除きます。術後に尿失禁や勃起障害を認めることが多いので、全身状態や患者の年齢、期待余命を考慮して手術の適応を決める必要があります。開腹手術以外にも、腹腔鏡手術、ロボット手術などがあります。
- 放射線療法
- 体の外から放射線を照射する外照射が一般的ですが、放射線をだす小さな針(密封小線源)を前立腺に埋め込む組織内照射も行われています。放射線はがん周囲の正常な組織にも作用してしまうので、膀胱炎や尿道炎を起こしたり、尿道狭窄などの副作用をきたすことがあります。
- 粒子線治療(陽子線、重粒子線)は、がんのあるところに最大の線量を照射するように調整することができます。
- 化学療法
- ドセタキセルなどのタキサン系薬剤で有効性が報告されています。
治療法の選択
前立腺がんの進行度は4段階の病期(ステージ)に分かれ、それぞれの病期によって治療方法が異なります。
- 病期 A:良性の病気として切除した組織に偶然発見されたがん
- 病期 B:がんが前立腺のなかに限局しているもの
- 病期 C:がんが前立腺の被膜をこえて広がっているもの
- 病期 D:リンパ節または、骨、肺、肝臓などの前立腺から離れた臓器に転移がみられるもの
経過観察 | 外科療法 | 内分泌療法 | 放射線療法 | 化学療法 | |
---|---|---|---|---|---|
病期A | ○ | ○ | ○ | ○ | × |
病期B | ○ | ○ | ○ | ○ | × |
病期C | × | ○ | ○ | ○ | × |
病期D | × | × | ○ | ○ | ○ |
<参考>
前立腺癌診療ガイドライン 2016年版 日本泌尿器科学会編
資料提供:武田薬品工業株式会社
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