肝臓の癌には、肝臓からできる癌(原発性肝癌)と、他の臓器から肝臓に転移してできる癌(転移性肝癌)があります。
原発性肝癌には、肝細胞からできる肝細胞癌と、胆管細胞からできる胆管細胞癌があり、このうち95%以上が肝細胞癌です。そこで、肝がんといえば、肝細胞癌として解説しています。
肝がんは、男性に多く、男性では死亡数の第5位です。肝細胞癌の大半はB型およびC型肝炎ウイルスによる慢性肝炎や肝硬変が原因ですが、脂肪肝や飲酒による肝がんが増えています。
肝炎ウイルスに感染している場合は、まず、その治療を行うことが必要です。抗ウイルス薬の進歩により、肝炎ウイルスによる肝炎は治る病気になりました。
脂肪肝やアルコールによる肝障害は軽視されがちですが、肝硬変に至ることもあり、生活習慣の改善を中心にした治療が必要です。
症状
- ほとんど無症状のうちに進行します。
- がんが大きくなれば、みぞうちにしこりを触れたり、食欲不振、全身倦怠感、黄疸などの症状を認めることがあります。
診断
画像診断
- 腹部超音波検査(エコー検査)
- 簡単で痛くもなく、がんの大きさや種類を診断するために最も有効な検査です。
- がんができている位置や患者さんの状態(肥満、おなかのガスが多いなど)によっては診断が難しいことがあります。
- CT検査
- 造影剤を点滴しながら、肝臓の断面を撮影します。
- 造影剤によるがんの染まり方は、がんの広がりや種類を診断するのに役立ちます。
- 血管造影
- 肝臓の血管に細いチューブをいれ造影剤を注入して、がんの染まり方を撮影します。がんの広がりや種類を診断するのに役立ちます。
- MRI検査
- 信号の強さや造影剤の染まり方で、がんの種類を判定する参考になります。
- 針生検
- 超音波検査で肝臓の内部を見ながら、細い針を腫瘍に刺して組織を検査します。
肝細胞癌の腫瘍マーカー
腫瘍マーカーとは、がん細胞またはがんに対する体の反応によって作られ、血液や尿、組織などで増加している物質のことです。
肝細胞癌にはAFP、PIVKA-IIなどの優れた腫瘍マーカーがありますが、胆管細胞癌には良い腫瘍マーカーがありません。
- AFP(α-fetoprotein, アルファ-フェトプロテイン)
- AFPは肝細胞癌の代表的な腫瘍マーカーです。
- AFPは肝細胞が再生するときにも産生されるので、肝細胞癌のない慢性肝炎や肝硬変でも上昇することがあります。
- AFPが持続的に上昇する場合は、将来癌ができる危険が高いと考えられています。
- AFPの上昇がある場合は、AFPの一部であるL3(AFP-L3)が参考になります。
- AFP-L3
- AFPの一部であるAFP-L3は肝細胞癌に対する特異性が高く、癌の悪性度が高い、癌の個数が多い、癌が大きいなどの場合にAFP-L3が高値になります。
- PIVKA-II
- 肝細胞癌に特異性の高い腫瘍マーカーですが、AFPとの関連がないため、AFPでの見落としをカバーするために使われることがあります。
- 癌がない場合でも、黄疸や薬剤(ワーファリンや抗生物質など)でビタミンKが欠乏したときに上昇することがあります。
病期(ステージ)
肝癌の数、大きさ、血管への浸潤、転移の有無によって進行段階(病期)が決まります。
- Ⅰ期:癌が単発、かつ、血管への浸潤なし。リンパ節への転移なし。
- Ⅱ期:血管への浸潤がある。または、多発しているが最大径が5cm以下。リンパ節への転移なし。
- Ⅲ期:多発で最大径が5cm以上、または、隣接臓器へ浸潤がある。または、リンパ節への転移がある。
- Ⅳ期:肝臓以外の臓器への転移がある。
Child-Pugh 分類
- 肝予備能(肝臓の残存能力)を評価する方法に、Child-Pugh分類があります。点数が高いほど、肝臓の能力が低下しているので、肝臓に負担のかかる治療が難しくなります。
- A、B、Cの3段階に分類され、Cは最も悪い段階です。
項目 | 1点 | 2点 | 3点 |
脳症 | ない | 軽度 | ときどき昏睡 |
腹水 | ない | 少量 | 中等量 |
血清ビリルビン値(mg/dl) | 2.0未満 | 2.0-3.0 | 3.0超 |
血清アルブミン値(g/dl) | 3.5超 | 2.8-3.5 | 2.8未満 |
プロトロンビン活性値(%) | 70超 | 40-70 | 40未満 |
5-6点:A,7-9点:B、10-15点:C
治療
- 肝切除
- 外科的に癌を切り取る方法です。癌の大きさや数、場所などから切除可能かどうかを判定します。
- 肝臓の予備力が十分に保たれていることも条件になります。
- 局所療法
- 超音波検査で肝臓の内部を見ながら、細い針で腫瘍内にエタノールを注入する方法(PEI)、針先からラジオ波やマイクロウェーブを発生させて腫瘍を焼く方法(RFA)などがあります。
- 3cm以下の小さな癌が対象になります。
- 肝動脈塞栓術(TAE)
- 癌を栄養している血管(肝動脈)に細いチューブをさしこんで、抗癌剤を注入した後、その血管をゼラチンスポンジなどでふさいでしまいます。
- 化学療法(分子標的薬)
- 手術や局所治療のできない進行例には、抗がん剤(分子標的薬:ソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブ、ラムシルマブ)の投与を行うことがあります。
- 肝移植
- 肝移植の適応:Milan基準
- 腫瘍は単発で5cm以下もしくは3cm, 3個以下
- 血管浸潤を伴わない
- 遠隔転移を伴わない
- 肝移植の適応:Milan基準
<参考>
国立がん研究センター「がん情報サービス」
日本肝臓学会「肝癌診療ガイドライン2017年版」
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