認知症|診断から治療まで

認知症

認知症とは、いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知障害があるために社会生活に支障をきたすようになった状態です。つまり、日常生活に支障があるような病的なもの忘れが、認知症です。

人は、年齢とともに誰でも記憶力が低下しますが、これは加齢による変化で病気ではありません。

認知症のもの忘れは、

  • 体験全体を忘れる(たとえば、食事をしたことを忘れる)
  • ヒントをだしても思い出せない
  • 時間や場所などの見当がつかない
  • もの忘れに対して自覚がない

などの特徴があります。

認知症の6割以上は、アルツハイマー型認知症で、とくに80歳以上での増加が目立っています。

アルツハイマー型認知症を早期に診断するのは難しく、年齢による衰えなのか、認知症の症状なのか判断に迷うことが少なくありません。本人が自覚していない変化を、家族が気づいていることが多いので、診断上、家族からの情報はとくに重要です。

認知症を早期に診断するのは、難しいものです。何度も通院している患者さんで、話は普通に通じるし、どこといって変わったところはない。ある日、家族が一緒にやってきて、自宅での症状を訴えて、やっと認知症とわかる。そんなことをよく経験します。

認知症とまではいかないが、正常でもない、正常と認知症の境界状態を、軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)といいます。

MCIは、早期の認知症ともいえます。認知症をより早期に発見できれば、薬を使ったり、介護サービスを準備したりできます。ただし、MCIのすべてが、認知症になるわけではありませんが、認知症のサインを拾い上げることは、今後の治療に大変重要です。

認知症がみつかるきっかけは、家族が「おかしい」と気づくことが大事です。家族の方が、下記の症状に気づいたら、ぜひ、かかりつけの医師に教えてください。認知症の患者さんは、病気に対する自覚がなく、自分からもの忘れを訴えないため、医師が診察中に気づくのは難しいものです。診察室では、ものわかりのいい患者であることが多いのです。

  • 同じことを何回も言ったり聞いたりする
  • 財布を盗まれたという
  • だらしなくなった
  • いつも降りる駅なのに乗り過ごした
  • 夜中に急に起き出して騒いだ
  • 置き忘れやしまい忘れが目立つ
  • 計算の間違いが多くなった
  • 物の名前が出てこなくなった
  • ささいなことで怒りっぽくなった

認知症では、脳の中の記憶を司る「海馬(かいば)」という場所が萎縮することが特徴的です。

脳のMRI検査は、海馬の萎縮をみることで、認知症の可能性をチェックします。MRI画像を読み取るソフトウェアが進歩し、簡単に海馬の萎縮を解析することができるようになりました。しかし、MRI検査は補助的な検査で、これだけで認知症を診断することはできません。従来からある質問形式の聞き取り検査と、組み合わせて、診断の参考にします。

認知症の症状には、共通してみられる中核症状と、個人差の多い反応性の症状があります。反応性の症状は、周辺症状もしくは行動・心理症状(BPSD)とよばれます。

中核症状には、

  • もの忘れ、とくに数分前のことを覚えることができない(記憶障害)
  • 時間、場所、人物がわからない(見当識障害)
  • 思考力や判断力が低下する
  • 物事の手順がわからなくなる(実行機能障害)

反応性の症状には、

  • あてもなく歩き回る(徘徊)
  • 物を盗られたなどの妄想
  • 不安、気分の落ち込み

介護を悩ます認知所の周辺症状(BPSD)

BPSDは、「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の略で、訳すと、「認知症に伴う行動と心理の症状」ということです。

少し前のことを覚えていない、近所で道に迷う、ものの使い方がわからない、言葉がでない、などの症状は、脳の認知能力の低下そのものによる症状で、中核症状といわれます。

BPSDは、認知力の低下に伴っておこる症状で、中核症状に対して、周辺症状ともいわれます。 

BPSDには、妄想、徘徊、興奮、攻撃的な行動、不潔行為、不眠など、多彩な症状があり、介護をする上では、実はBPSDこそが厄介な問題になります。

介護する側の視点から見ると、たとえば、40歳以上の夫婦で両親のどちらかが認知症である確率は約30%、55歳以上では約68%となります。認知症の本人をいかに治療していくかは、もちろん大事なことですが、いかに介護していくかという視点から、認知症の治療を考えていくことが重要です。

介護する側の教育、心のケア、経済的な支援が必要です。少子高齢化は、自分を介護してくれる子供はいないのに、親の介護は重くのしかかるということです。

親にしても、子供の人生を犠牲にしたくはないと考えているはずです。しかし、誰かの手助けがなければ生きていけなくなるのが、年をとる、老いるということです。

自分は子供の面倒になりたくないと考えていても、程度の差こそあれ、お世話になる。いずれは、自分もたどりつく道として、介護側も勉強しなければなりません。

認知症には、いくつかのタイプがありますが、最も多いのがアルツハイマー型認知症で、全体の半数近くを占めています。

次に多いのが、脳血管型認知症です。それ以外の頻度の少ない認知症には、レビー小体型認知症前頭側頭型認知症があります。

認知症は、年齢とともになりやすくなる病気です。最近の調査では、65歳以上の約15%が認知症と推定されています。

アルツハイマー型認知症は、徐々に進行していく病気です。

最初は難しい仕事の時に失敗する程度ですが、次第に、通常の仕事や食事の準備、家計の管理や買い物などで失敗するようになります。

さらに進むと、着衣、入浴、トイレなどが自力では困難になり、日常生活に介助が必要になります。重症になると、歩いたり座ったりなどの簡単な動作も不自由になり、話をしない、食事をしない状態となり、全面的な介助が必要になります。

アルツハイマー型認知症を根本的に治す薬は、現在のところ、ありません。認知症の治療薬は、一定期間、症状を改善し、病気の進行を遅らせる薬です。

抑うつや妄想、幻覚や不穏状態などの反応性の症状(周辺症状)は、介護の工夫で改善されることがあります。

周辺症状が改善されない場合は、薬の投与を行うことがありますが、確立された治療薬はあまりないのが実状です。

アルツハイマー型認知症についで多いのが、脳血管性認知症です。

脳血管性認知症は、脳の血管がつまる脳梗塞や、脳の血管が破れる脳出血などの脳血管障害によって、脳の機能が低下しておきる認知症です。

脳血管障害がおきるたびに、階段を下りるように、一段一段悪化していきます。動脈硬化によって脳血管の中が細くなり、つまりやすく、もろくなります。

脳血管障害の最大の危険因子は、高血圧です。さらに、糖尿病、脂質異常(コレステロール、中性脂肪)、喫煙、アルコールの飲みすぎ、肥満などが動脈硬化の原因になります。

また、心房細動などの不整脈は、血の固まり(血栓)が突然血管につまる脳塞栓の原因になりますので、血液の流れを良くする薬が必要な場合があります。

脳血管性認知症は、アルツハイマー型認知症との違いを表にまとめました。

アルツハイマー型認知症脳血管性認知症
高齢の女性に多い60歳台の男性に多い
ゆっくり進行階段状に悪化
病気に対する認識がない病気を自覚している
人格低下人格保持
多幸性、多弁抑うつ、意欲低下
CT/MRI:脳委縮(海馬)CT/MRI:梗塞巣の多発

レビー小体型認知症は、3番目に多い認知症で、全体の約20%といわれています。

認知症の症状の変動が激しく、日によって、また1日のうちでも変動することがあります。また、幻視(鞄のなかに犬がいる、絨毯のなかに虫がいるなど)を訴えることがよくあります。

筋肉や関節のこわばり、体の動きが鈍くなる、手のふるえなどのパーキンソン症状を伴うことも特徴です。

前頭側頭型認知症は、さらに頻度の低い認知症です。

その名の通り、脳の前頭葉と側頭葉に委縮が起こり、人格変化や言語症状、行動の異常が強く現れます。前頭葉は、人間らしさを司る領域だからです。

感情は平坦になり、抑制のきかない行動、自発性の低下、同じ行動を繰り返す常同症などが特徴的な症状です。

認知症の方の心理

認知症患者さんは、「わからない」ことの連続で、思い出せない、何かがおかしい、考えてもわからないといった不安と混乱の世界を生きています。今まではできていた家事や仕事の失敗で、自信をなくしてしまいます。現実の世界についていけず、焦り、苛立ちを覚え、自分が壊れていく強い恐怖を感じています。

認知症の方との接し方

  • 自尊心を傷つけないために、間違った行動や意味不明な行動をしても、叱らない、否定しない
  • 後ろから急に話しかけたりせず、相手の視野に入ってから話しかける
  • 言葉の理解に時間がかかるので、ゆったり、穏やかに、笑顔で応対する
  • 一度にたくさんの話をせずに、わかりやすい言葉で話す
  • 身振り手振り、写真や物を使って、理解を助ける
  • トイレの場所をわかりやすくしたり、カレンダーや時計は見やすいものを用意する
  • 相手の世界に話を合わせて、危険にない範囲で見守る

認知症の患者さんは、病気になったからといって、今までの生活スタイルを変える必要はありません。外出を控える必要もありません。ただし、万が一のために、名前と住所がわかるものを身につけ、GPS付きの携帯電話をもたせるなどの準備は必要でしょう。

  • 年月日や曜日がわかりやすい大きめのカレンダーを、目のつきやすい場所にかけておきましょう。
  • よく使うものは置き場所を決めて、いつも同じところに置いておきましょう。
  • 予定や必要なことは、いつも同じ手帳やカレンダーに書き込むようにしましょう。

認知症を予防するために、どんな生活が認知症になりにくいのでしょう?

  • 本や新聞を読む、楽器の演奏、ゲームなどの頭を使う趣味をもちましょう
  • 人と接する機会を増やしましょう
  • 適度な運動で頭を活性化しましょう
  • 野菜や魚をたっぷりとりましょう。 ビタミンEが血液の流れを良くし、EPAなどの脂肪酸が動脈硬化を防ぎます

認知症は、病気の進行の程度に応じて、医療や介護のさまざまな専門職の支援が必要になります。通院や在宅医療を行うかかりつけ医、後方支援のための病院、介護施設など連携をとりながら、患者さんを継続的に支援していく仕組みづくりが重要です。

もし、あなたが認知症と診断されたら、自動車の運転は控えた方が良いでしょう。

認知症の患者さんの30-50%が自動車事故を起こしているといわれます。認知症の方は、同年齢の健常者の2.5から4.7倍、衝突事故を起こすリスクが高いのです。

<参考>
認知症疾患診療ガイドライン2017 日本神経学会監修, 「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会編, 医学書院 2017.

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