日本の認知症患者数は、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されています。認知症の前段階とされる「軽度認知障害(MCI)」と合わせると、高齢者の約4人に1人が認知症あるいはその予備群ということになります。
認知症と糖尿病には密接な関係があり、糖尿病が認知症の原因のひとつであることがわかってきました。
糖尿病は、脳の血管に動脈硬化を起こして血液の流れを低下させるだけでなく、高血糖そのものが脳の神経に障害を起こします。また、高インスリン血症、インスリン分泌不全なども関与していると考えられています。
高齢糖尿病患者では、認知症のリスクが高くなるので、糖尿病の治療だけでなく、動脈硬化の予防や、認知症の早期発見や治療を念頭に置いた対応が必要になります。
高齢糖尿病患者の認知症のリスクは、アルツハイマー型認知症および脳血管性認知症ともに非糖尿病患者の2-4倍といわれます。また、低血糖のよっても認知症のリスクを高くなります。
高齢糖尿病患者では、遂行機能(実行機能)、情報処理能力、注意力、言語記憶、視覚障害などの領域が傷害されやすくなります。
遂行機能は注意力、反応抑制と転換、情報処理、視空間認知、抽象化、理由づけ、作業記憶、言語流暢性、計画、判断などを含む複雑な高次の認知能力であり、主として前頭葉の機能です。遂行機能が低下すると、セルフケアの障害につながり、食事や薬の管理が難しくなり、血糖のコントロールが悪化して高血糖を招き、高血糖はさらに遂行機能障害をきたすという悪循環をつくります。
高齢者糖尿病における重症低血糖は、認知機能低下または認知症のリスクを高めます。また、認知機能障害が重症になるにつれて、重症低血糖のリスクが高まるという悪循環も起きてしまいます。
高齢者糖尿病では、認知機能の評価を行い、認知症の早期発見に努めるべきです。
- MMSEやHDS-R、DASC-21などの簡易質問表を使って、認知機能のスクリーニング検査を行います。
- 認知症の診断は、NIA-AAなどの診断基準などを用いて行います。
NIA-AAによる認知症の診断基準(2011)
- 仕事や日常活動に支障
- 以前の水準に比べ遂行機能が低下
- せん妄や精神疾患によらない
- 認知機能障害は次の組み合わせによって検出・診断される
- 患者あるいは情報提供者からの病歴
- 「ベッドサイド」精神機能評価あるいは神経生理検査
- 認知機能あるいは行動異常は次の項目のうち少なくとも2領域を含む
- 新しい情報を獲得し、記憶にとどめておく能力の障害
- 推論、複雑な仕事の取り扱いの障害や乏しい判断力
- 視空間認知障害
- 言語障害
- 人格、行動あるいは振る舞いの変化
McKhann GM et al : ALzheimers Dement 7 : 263-269, 2011
予防・介護
ビタミンB群、ビタミンA、野菜の摂取不足は認知機能の低下と関連する可能性があります。ビタミンや野菜を含むバランスの良い食事をしましょう。
高齢者でも定期的な身体活動、歩行などの運動療法は、代謝異常の是正だけでなく、認知機能低下の抑制にも効果があります。
患者の身体機能、認知機能および心理状態を評価し、家族によるサポートのみならず介護保険などの社会サービス(たとえば訪問看護)を利用し、内服薬管理(服用)やインスリン注射をできるようにすることが重要です。
<参考>
糖尿病治療ガイド2018-2019 日本糖尿病学会編・著
高齢者糖尿病治療ガイド 2018 日本糖尿病学会・日本老年医学会編
認知症疾患診療ガイドライン2017 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会編
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