ギラン・バレー症候群は、細菌やウイルスなどの感染による感冒や下痢などの症状から1-3週ほどして、両足の先にしびれや力が入りにくいという症状があらわれます。症状は数日から2週間の間に急速に進行し、手足が麻痺して歩行が難しくなることがあります。
また、顔面の筋肉が麻痺したり、物が二重に見えたり、物が飲み込みにくくなるなどの脳神経の障害を認めることがあります。脈の乱れ、起立時の血圧低下、排尿や排便など自律神経の障害を伴うこともあります。重症例では、呼吸筋が麻痺して人工呼吸器が必要になることがあります。
外部から侵入した病原体の糖脂質に対して産生された抗体が、自分自身の末梢神経の糖脂質と結合し攻撃することで、神経障害をおこすと考えられています。すなわち、ウイルスや細菌感染などが契機となって引き起こされる自己免疫疾患です。
人口10万人あたりの年間発生率は1-2人、平均年齢は39歳、男女比は3:2とやや男性に多い傾向があります。約7割の患者に先行する感染症の症状がみられ、発熱・鼻汁・咽頭痛・咳などの上気道炎症状や下痢などの胃腸症状が多くみられます。
原因となる主な病原体には、サイトメガロウイルス、EBウイルス、マイコプラズマ、カンピロバクターなどがあります。ごくまれに、ワクチンやインターフェロンなどの生物製剤、抗菌薬、抗がん剤などの医薬品が原因になることがあります。
- 原因となる医薬品
- ワクチン類
- インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、ポリオワクチンなど
- インターフェロン:肝炎の治療など
- ペニシラミン:関節リウマチなど
- ニューキノロン系抗菌薬:感染症
- HIV感染症に使用される抗ウイルス薬
- 抗がん剤
- ワクチン類
新型コロナワクチンとギラン・バレー症候群
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するAd26.COV2.Sワクチン(Johnson & Johnson社)の接種により、ギラン・バレー症候群の発症リスクがわずかですが統計学的に高くなることが報告されました。 Emily Jane Woo et al., JAMA. 2021 Oct;326(16);1606-1613.
症状
- 両側の手や足に力が入らない
- 歩行時につまずく
- 階段を昇れない
- 物がつかみづらい
- 手や足の感覚が鈍くなる
- 顔の筋肉が麻痺する
- 食べ物が飲み込みにくい
- 呼吸が苦しい
診断基準
- 診断に必要な特徴
- 2肢以上の進行性の筋力低下、その程度は軽微な両下肢の筋力低下(軽度の失調を伴うこともある)から四肢、体幹、球麻痺、顔面神経麻痺、外転神経麻痺までを含む完全麻痺まで様々である
- 深部反射消失、すべての深部反射消失が原則。しかし、他の所見が矛盾しなければ、上腕二頭筋反射と膝蓋腱反射の明らかな低下と四肢遠位部の腱反射の消失でよい
- 診断を強く支持する特徴
- 臨床的特徴(重要順)
- 進行:筋力低下は急速に出現するが、4週までに進行は停止する。約50%の症例では2週までに、80%は3週までに、90%以上の症例では4週までの症候はピークに達する
- 比較的対称性:完全な左右対称性はまれである。しかし、通常1肢が傷害された場合、対側も障害される。
- 軽度の感覚障害を認める
- 脳神経障害:顔面神経麻痺は約50%にみられ、両側性であることが多い。その他、球麻痺、外眼筋麻痺がみられる。また、外眼筋麻痺やその他の脳神経障害で発症することがある(5%未満)
- 回復:通常、症状の進行が停止した後、2から4週で回復し始めるが、数ヶ月も遅れることがある。ほとんどの症例は機能的に回復する。
- 自律神経障害:頻脈、その他の不整脈・起立性低血圧・高血圧・血管運動症状などの出現は診断を支持する。これらの所見は変動しやすく、肺梗塞などの他の原因によるものを除外する必要がある。
- 神経症状の発症時に発熱を認めない
- 臨床的特徴(重要順)
経過
多くは徐々に改善し6ヶ月ほどで治りますが、死亡例や神経症状の回復が遅れる例があります。
検査
- 脳脊髄液検査
- 神経伝導検査
- 血清抗糖脂質抗体測定
治療
- 免疫グロブリン静注
- 血漿浄化療法
- 重症例では呼吸筋麻痺などのため、集中治療室での全身管理が必要
<参考>
厚生労働省 「重篤副作用疾患別対応マニュアル ギラン・バレー症候群(急性炎症性脱髄性多発神経根ニューロパチー、急性炎症性脱髄性多発根神経炎)2009年5月
日本神経学会 ギラン・バレー症候群・フィッシャー症候群 診療ガイドライン2013
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