今日、別の患者さんの回診中に、遠くから、「おーい、おーい」と声をかけられた。認知症がかなり進んだ患者さんで、意味のある話ができる人ではない。妄想があり、上を向いて、そこにいない誰かに話しかけている。
白衣の私が目に入ったようで、主治医と思って話しかけている。まったく、何を話しているかはわからないのだが、ときどき、「・・・だよね?」とか「・・・だろう?」という言葉が聞き取れたので、たぶん、何かを尋ねているのだろう。
「そうそう、そうですよ」
「そうね、だいじょうぶよ」
と、返答をすると、何となく彼のなかでつじつまがあったのか、深くうなずいて、静かになった。
認知症の患者さんは、他人からは理解できなくても、自分なりの世界のなかで考え、話をしている。ときには、周りから見えない人と話をしたり、周りには見えないものが見えていたりする。
それは、患者さんにとっては、リアルな世界のことだから、周りの人が本当のことを言い聞かせても、そっちがウソということになってしまう。
決してバカにするのではなく、認知症の方が住んでいる世界を想像して、それにあわせてみるのは、いい方法だと思っている。そのときは、かなり突拍子もなく、自由な想像力を働かせて、知らない世界をのぞいてみる感覚を楽しもう。
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