アルコール依存症は、多量の飲酒を続ければ誰でも発症する可能性があります。アルコール依存症は精神疾患であり、適切な治療を行う必要がありますが、実際に治療を受けている患者さんはわずかで、多くが見逃されています。また、アルコールは200以上の病気の原因になるといわれます。
アルコールがもたらす代表的な病気
脳 | うつ、不安障害、認知症、アルコール依存症、ウェルニッケ脳症 |
心臓 | 高血圧、不整脈 |
膵臓 | 糖尿病、膵炎、膵臓癌 |
肝臓 | 脂肪肝、肝炎、肝硬変、肝細胞癌 |
大腸 | 大腸癌 |
喉・食道 | 口腔癌、喉頭癌、食道癌 |
その他 | 脂質異常症、高尿酸血症、末梢神経障害、乳癌、胎児性アルコール症候群(妊婦の飲酒による) |
アルコール依存症のスクリーニング(AUDIT-C)
AUDIT-Cは3つの項目からなる簡単なテストです。3つの質問の点数を合計し、男性で5点以上、女性で4点以上で、アルコール依存症を疑います。AUDIT-Cで依存症が疑われる場合は、ICD-10の診断基準で診断します。
1 | あなたはアルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか? | 0.飲まない 1.1ヵ月に1度以下 2.1ヵ月に2-4度 3.1週に2-3度 4.1週に4度以上 |
2 | 飲酒するときには通常どのくらいの量を飲みますか?ただし、日本酒1合=2ドリンク、ビール大瓶1本=2.5ドリンク、ウイスキー水割りダブル1杯=2ドリンク、焼酎お湯割り1杯=1ドリンク、ワイングラス1杯=1.5ドリンク、梅酒少コップ1杯=1ドリンク | 0.1-2ドリンク 1.3-4ドリンク 2.5-6ドリンク 3.7-9ドリンク 4.10ドリンク以上 |
3 | 一度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか? | 0.ない 1.1ヵ月に1度未満 2.1ヵ月に1度 3.1週に1度 4.毎日、ほとんど毎日 |
アルコール依存症の診断:ICD-10
以下の6項目のうち、過去1年間に3項目以上が同時に1ヶ月以上続いたか、または、繰り返し出現した場合に「アルコール依存症」と診断されます。
- 飲酒したいという強い願望または切迫感
- 隠れてでも飲んでしまう
- お酒が手元にないと不安
- お酒のために面倒くさがらずに出かける
- 仕事中でも酒のことばかり考えている
- 仕事が終わったら一人でも必ず飲みに行く
- 仕事中でも飲んでしまう
- 飲酒行動(開始、終了、量の調節)を制御することが困難
- いつも泥酔するまで飲んでしまう
- 休肝日と決めても飲んでしまう
- 飲み始めたら止まらない
- 前もって決めていた量以上に飲んでしまうことがしばしばある(たとえば2杯までと決めていたのに3, 4杯飲んでしまう)
- 断酒や節酒による離脱症状の出現、離脱症状を回復または軽減のために飲酒する
- 頭痛、吐き気をもよおす、食欲がない、微熱がある、脈が速くなる、イライラする、手がふるえる、寝汗をかく、眠れなくなる、迎え酒をする
- 当初得られた酩酊効果を得るために飲酒量が増加する
- 飲む量が増えている
- たくさん飲まないと酔えなくなった
- 飲酒のために本来の生活を犠牲にする、飲酒に関係した行為やアルコールの影響からの回復に費やす時間が増加する
- 一日中飲んでいる
- 一日中酔いが続いている、もしくは酔いからさめるのに多くの時間を使っている
- 趣味などの活動よりお酒を優先させる
- 心身に問題が生じているにもかかわらず飲酒を続ける
- 医師から、うつがひどくなるために飲酒を止められているのに飲んでしまう
- 健康診断で指摘されているのに飲んでしまう
アルコール依存症の診断手順
治療
断酒あるいは飲酒量を減らすための治療の主体は、心理社会的治療です。心理社会的な治療には、認知行動療法、動機づけ面接法、集団精神療法などがあります。薬物療法は補助的に使われます。
不安や抑うつ症状が合併しているときは、それらの精神疾患の治療を並行してお行います。
<参考>
日本アルコール・アディクション医学会・日本アルコール関連問題医学会「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き 第1版」(2018年12月)
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新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)
新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)は、日本人向けのアルコール依存症のスクリーニングテストです。新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)には、男性版(KAST-M)と女性版(KAST-F)があります。
KAST男性版
新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト男性版(KAST-M) | |||
最近6ヶ月の間に、以下のようなことがありましたか? | |||
項目 | はい | いいえ | |
1 | 食事は1日3回、ほぼ規則的にとっている | 0点 | 1点 |
2 | 糖尿病、肝臓病、または心臓病と診断され、その治療を受けたことがある | 1点 | 0点 |
3 | 酒を飲まないと寝付けないことが多い | 1点 | 0点 |
4 | 二日酔いで仕事を休んだり、大事な約束を守らなかったりしたことがある | 1点 | 0点 |
5 | 酒をやめる必要性を感じたことがある | 1点 | 0点 |
6 | 酒を飲まなければいい人だとよく言われる | 1点 | 0点 |
7 | 家族に隠すようにして酒を飲むことがある | 1点 | 0点 |
8 | 酒が切れたときに、汗がでたり、手が震えたり、いらいらや不眠など苦しいことがある | 1点 | 0点 |
9 | 朝酒や昼酒の経験が何度かある | 1点 | 0点 |
10 | 飲まない方がよい生活が送れそうだと思う | 1点 | 0点 |
合計 | 点 |
- 判定
- 合計点が4点以上:アルコール依存症の疑いが高い。専門医療の受診をおすすめします。
- 合計点が1−3点:要注意。飲酒量を減らしたり、一定期間禁酒をしたりする必要があります。ただし、質問1のみが「いいえ」の場合は正常です。
- 合計点が0点:正常
KAST女性版
新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト女性版(KAST-F) | |||
最近6ヶ月の間に、以下のようなことがありましたか? | |||
項目 | はい | いいえ | |
1 | 酒を飲まないと寝付けないことが多い | 1点 | 0点 |
2 | 医師からアルコールを控えるように言われたことがある | 1点 | 0点 |
3 | せめて今日だけは酒を飲むまいと思っても、つい飲んでしまうことが多い | 1点 | 0点 |
4 | 酒の量を減らそうとしたり、酒を止めようと試みたことがある | 1点 | 0点 |
5 | 飲酒しながら、仕事、家事、育児をすることがある | 1点 | 0点 |
6 | 私のしていた仕事をまわりのひとがするようになった | 1点 | 0点 |
7 | 酒を飲まなければいい人だとよく言われる | 1点 | 0点 |
8 | 自分の飲酒についてうしろめたさを感じたことがある | 1点 | 0点 |
合計 | 点 |
- 判定
- 合計点が3点以上:アルコール依存症の疑いが高い。専門医療の受診をおすすめします。
- 合計点が1−2点:飲酒量を減らしたり、一定期間禁酒をしたりする必要があります。ただし、質問6のみが「はい」の場合は正常です。
- 合計点が0点:正常
CAGEテスト
CAGEテストは、もっとも簡単なアルコール依存症のスクリーニングテストです。
- お酒の飲み方について、心当たりはありませんか?
- あなたは、自分の酒量を減らさないといけないと感じたことがありますか?
- 他の人に自分の飲酒について非難され、気にさわったことがありますか?
- 自分の飲酒について、よくないと感じたり、罪悪感を持ったことがありますか?
- 神経を落ち着かせ、または二日酔いを治すために、迎え酒をしたことがありますか?
- 1つでも該当すれば「危険な飲酒」であり、節酒の取組みが必要です。
- 2つ以上該当する場合は、アルコール依存症の疑いがあります。
アルコールの適量は、1日平均で純アルコール量20gが適量です。
といっても難しいので、目安になる量は、
- 日本酒(アルコール度数、15%)=1合(180ml)
- 焼酎(25%)=0.6合(110ml)
- ビール(5%)=中びん1本(500ml)
- ウイスキー(43%)=シングル2杯(60ml)
- ワイン(12%)=2杯(240ml)
女性は、男性よりアルコールを分解する能力がもともと低いので、同じアルコール量でも血液中の濃度が高くなります。そのため、女性が飲み過ぎると、男性より肝臓などの臓器障害をおこしやすいといわれています。
また、日本人の約半分は生まれつきアルコールで悪酔いをしてしまいます。これは、アセトアルデヒドを分解する酵素が弱いために、少量のアルコールでも悪酔いのもとになるアセトアルデヒドがたまってしまうからです。お酒を飲めないのは遺伝ですから、飲めない人に無理強いはよくありません。
いくら適量といっても、毎日の飲酒はよくないので、週に2日は休肝日にして、お酒を飲まない日を作りましょう。
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