フォーミュラリー、安い薬の強制では困ります

処方箋

医療費、とりわけ薬剤費の削減のために導入が議論されているのが、「フォーミュラリー」です。一般の方は聞いたこともないでしょうが、もともと、フォーミュラリー(formulary)は「処方集」のことです。現在、議論されている「フォーミュラリー」は「使用ガイド付き医薬品集」ともいわれ、医療機関で医学的妥当性や経済性等を踏まえて作成された使用指針を含む医薬品集のこととされます。

これでは何のことやら難しいですが、簡単にいうと、血圧の薬は最初にこれを使い、次にこれ。コレステロールの薬はまず、これから使う。という風に、あらかじめ、処方薬を決めておくことです。病院の中で、病気ごとに使う薬を1-2種類の安い薬に決めておけば薬代も減らせるし、在庫管理も都合が良くなるという訳です。

それでいいじゃないかと思われそうですが、たとえば、血圧の薬ならどれでも同じという訳ではありません。血圧を下げる強さ、心臓や腎臓などの臓器への保護作用、副作用の危険性など、患者さんの病状に合わせて薬を選んでいます。同じような薬がたくさんあるように見えますが、薬にも個性があり、それを使いこなすのが医師のスキルでもあります。

ところが、フォーミュラリーでは、「推奨医薬品リスト」の中から、最も推奨される薬剤の処方を行うのが原則になります。

たとえば、血圧の薬は〇〇、胃潰瘍の治療薬は□□、コレステロールの治療薬は△△を使う、とフォーミュラリーに決められていれば、原則的にその薬を使うことになります。安いジェネリック薬が指定されれば、薬の値段も、在庫も減らすことができるので、医療機関でも、国全体で考えても薬剤費を節約することができるという仕組みです。

フォーミュラリーを、一つの病院の中だけで決めたものを「院内フォーミュラリー」といいます。その病院での処方方針が反映されたものになります。しかし、フォーミュラリーは、単に一つの病院の中だけではとどまりません。

さらに地域レベルに拡大したものが、「地域フォーミュラリー」です。地域レベルで作成され、地域全体の診療所や薬局、病院等に対して適用されるフォーミュラリーです。イギリスの公的医療保障制度では、地域の外来診療や病院群の運営組織のレベルで策定されています。

保険者(協会けんぽや健康保険組合などの保険の支払側)が薬剤リストを設定したものが、「支払側フォーミュラリー」です。アメリカの保険者の間で広く使われています。薬剤の推奨度に応じて、異なる患者自己負担を設定することもあります。推奨度の低い薬を処方した場合、患者さんの負担金の割合が増え、ペナルティを課すことで強制的にフォーミュラリーに従わせるためです。また、経済性を第一に考えるため、薬剤の処方の順序や数量等に対してルールを設けることもあります。

確かに、医療機関で採用されている薬の種類は多すぎる印象があります。果たして、これだけの薬を使い切れているかというと疑問です。また、フォーミュラリーの良いところは、専門医でなくとも処方集どおりにしておけばよいという安易な選択ができるようにはなります。

製薬会社側から見れば、フォーミュラリーに自社の薬が採用されるかどうかで売上が大きく変わることになります。フォーミュラリーに載るかどうかで売上が決まるわけですから、営業力が処方薬の選択を左右してしまうかもしれません。

とにかく処方薬を安い薬に強制して、従わなければペナルティを課すようなフォーミュラリーは、医師の裁量を押さえつけることになり、患者さんにとっても得にはなりません。

科学的な根拠があり、値段も安い薬を、医師が納得して使うのであれば、フォーミュラリーは強い武器になります。しかし、国や保険者がただ薬剤費を削るために、医師に治療薬の選択を強制したり、ペナルティを課すような仕組みができてしまうと、結局は患者さんにツケが回ってしまうのが心配です。

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